「自分も被害者になるかも」という気づき

すると視線を落とし、「男風呂です」と明かしたのです。後藤氏は、中学時代から同性への性的指向を自覚しながらも、親や友人など周囲の人にカミングアウトできずにいました。

日本の温泉脱衣所
写真=iStock.com/Torsakarin
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当然ながら、性的指向のカミングアウトは義務ではなく、個人の自由です。

誰に、いつ、どこまで、あるいは「一生しない」という選択も含めて、すべて本人に決める権利があります。しかし後藤氏は、「カミングアウトできない」という状況や、一般男性との性交渉の経験がないことを、ある種の生きづらさと感じていました。

性的マイノリティで、自らの性的指向を他者に打ち明けていない人は大勢いますし、彼らの多くは性犯罪に及びません。けれど後藤氏は、他者と触れ合いたくても触れ合えない葛藤や孤独感を解消するため、盗撮に及び、次第にのめり込んでいったのです。彼の話を聞いて以降、男性を性的対象にした男性盗撮加害者の相談を立て続けに受け、私自身の日常も一変しました。

クリニックや商業施設のトイレに入るたび、言いようのない居心地の悪さを感じ、気づけば不審なカメラが隠されていないか、不自然な穴が空いていないかなど、それとなくチェックするようになったのです。つまり、私も「いつ、自分が被害者になるかもしれない」という状況になって初めて、これまで享受していた特権を自覚した、というわけです。

多くの男性は、自分が性的なまなざしの対象になりうる可能性を、想像すらしていません。「自分だけは安全な場所にいる」「自分だけは絶対に被害に遭わない」という、男性側の無自覚な思い込みや万能感こそが、被害の深刻さを見えづらくしているといわざるをえません。

「加害者家族」は隠れた被害者

盗撮事件のニュースが流れるたび、私の頭をよぎるのは、「加害者家族」の存在です。クリニックでは、2007年7月年から「加害者家族支援グループ(Sexual addiction Family Grou-meeting:通称SFG)」を主宰し、性犯罪者の家族を支援し続けています。

そのため私は、「この加害者の家族は、今頃、どこでどのような思いをして過ごしているのだろう」と、ニュースの向こう側につい思いを馳はせてしまうのです。英語には「隠れた被害者(hidden victims)」という言葉があります。犯罪に手を染めた人の親やパートナー、そして子どもたち。

つまり、加害者家族です。彼らは、なんら罪を犯していないにもかかわらず、「家族である」という一点のみで、世間から強い嫌悪感や非難のまなざしを向けられます。メディアが押しかけ、プライベートを暴かれる。学校で子どもがいじめに遭う。就職や進学に影響が出る。

一家の働き手を失い、経済的困窮に陥る。世間からの目が気になり、外出が困難になり、うつ状態に陥る――。このような経済的、心理的、社会的な苦境に直面する加害者家族は、まさに隠れた被害者なのです。