手のひらの血流は1分間に何度も切り替わる
AVAの働きは、思いのほかダイナミックです。
超音波ドップラー法などによる計測では、快適と感じる程度の環境にいるとき、手足の動脈の血流速度は1分間に2〜3回のペースで大きく上下することが知られています。血流が高い状態はAVAがすべて開いているとき、低い状態は一斉に閉じたときに対応します。しかも閉じる動作は心拍にして2〜4拍というごく短時間で起こり、開くほうはゆっくり戻っていきます。
この開閉は、左右の手足で同時に起こります。右手の指と左足の親指という、身体の遠く離れた場所同士で血流の変動がぴたりと一致することも古くから報告されています。中枢から一斉に指令が出ている証拠です。
流れる量も無視できません。安静時の成人では、AVAを通る血流はおおよそ毎分250〜500ミリリットル、暑さが増してすべてが開いた状態では毎分1リットル程度、心拍出量のおよそ2割に達すると見積もられています。手のひらと足の裏(顔の頬にもAVAはあります)という限られた面積に、それだけの血液を送り込んで熱を捨てているのです。
なぜ「太い血管を冷やす」のは効率が悪いのか
首や脇の下の太い動脈を冷やす方法は、直感的には有効そうに見えます。しかし、大動脈は血流の速度が非常に速く、血液が一瞬で通り過ぎてしまうため、冷却の効率は思ったほど高くない場合があります。
川にたとえるなら、本流を勢いよく大量の水が流れているようなものです。表面を少し冷やしたところで、全体の水温を下げるところまではなかなか届きません。
一方、手のひらのAVAは表面積が大きく、血液が比較的ゆっくりと流れます。そのぶん、外気や冷却物との熱交換が効率よく行われるのです。
実際に、首を冷やした場合と手のひらを冷やした場合を比較した研究では、手のひらを冷やしたほうが圧倒的に速く深部体温が低下することが示されています。この研究は論文としても発表されているのですが、一般にはあまり知られておらず、熱中症対策として広まっていないのが現状でした。
東京オリンピックの競歩やマラソンでは、選手たちが氷を手にしながら競技する場面が見られました。あれは気休めではなく、手のひらのAVAを使って身体の内部の温度を下げるという、理にかなった方法だったのです。
実際に具合が悪くなったときの冷やし方
では、実際に暑さで具合が悪くなりそうなときは、どちらを冷やせばよいのでしょうか。
目安は「意識があるかどうか」です。
意識がしっかりしている段階であれば、まず手のひらを冷やすことをおすすめします。冷えたペットボトルが手元になければ、自動販売機やコンビニで買った冷たいペットボトルを握りながら歩くだけでも十分に効果があります。特別な道具は要りません。
一方、意識がなく倒れているような場合には、手のひらで効率的に冷やすこと自体が難しくなります。そのときは、首や脇の下を冷やすという従来の方法が現実的な対応になります。もちろん、ためらわずに救急要請をすることが大前提です。


