「全部やる」「一気にやる」はNG
また、片付けは「全部やる」と考えると重くなります。
「机の上だけ」
「床の上だけ」
「1袋だけ」
と範囲を小さくしたほうが始めやすくなります。
そして洗濯は、「洗う」「干す」「しまう」を別々の場所で行うより、できるだけ近くで完結するようにすると、家の中を何度も往復する手間が省けてとても楽になります。たとえば、
・脱いだ服を入れるカゴを、脱衣所や寝室の近くに置く
・洗剤や柔軟剤を洗濯機のそばに固定する
・干す場所を洗濯機の近くに確保する
・ハンガーをまとめて手に取りやすくする
・畳むのがつらいなら、畳まずに「かけるだけ」の収納にする
などを生活に取り入れてみてください。
小さな判断や行動が大きな「認知負荷」に
「ゴミ箱が少ない」
「物の置き場所が決まっていない」
「家事の動線が長い」
そんな小さなことが負担になるのか、と思われる方もいるかもしれませんが、精神医学的に見ると、こうした環境は「認知負荷」を高める要因になります。認知負荷とは、脳が情報を整理したり判断したりする際にかかる負担のことです。
人の脳は、毎日の小さな判断や行動でも、少しずつエネルギーを使っています。
「このゴミはどこに捨てよう」
「これはどこに片付ければいいんだろう」
「洗濯物をどこに持っていこう」
こうしたことは、ひとつだけなら大きな問題ではありません。しかし、毎日何十回も積み重なると、知らないうちに脳への負担になります。
特に、うつ状態や強いストレス状態では、以前なら何でもなくできていた判断や行動が難しくなり、「実行機能」と呼ばれる力が低下することがあります。
実行機能とは段取りを組む力のことで、何から始めるか計画を立てる、優先順位をつけて取り組む、といった、生活を進めるために必要な脳の機能です。実行機能が低下すると、元気な時に比べて家事や生活に必要な行動のハードルが高く感じられるようになるのです。
2024年に『Journal of Clinical Psychology』に掲載された、ドイツの約8800人を対象とした研究では、自宅を「安心できる」「居心地がいい」と感じている人ほど、抑うつ症状が少ないことが報告されました。
もちろん、この研究だけで「住環境が悪いとうつになる」「家事動線を改善すればうつが治る」とまでは言えません。
ただ、家事の動線を整えることは時間の節約だけではなく、「何からやろう」といった小さな判断を減らし、脳の負担を軽くすることにつながります。そんな積み重ねが、「安心できる」「居心地がいい」と感じられる住まいをつくるのではないでしょうか。

