安く見積もられていく「人間の価値」
そのため、これまで無価値と思われていた社内の日常的なやりとりや、個々の社員の反応、メッセージの履歴などが新たな鉱脈として注目を浴びつつある。前出の米フォーブス報道によれば、この分野では既にSimpleClosureやSunsetなどの「業務データのマーケットプレイス」を運営する企業が勢いを増しているという。
さらに、廃業したスタートアップのデータを使って、AIエージェントが実際の職場に近い形で訓練を行える模擬環境を提供する「強化学習ジム(reinforcement learning gym)」と呼ばれる新たな業界も生まれている。
これらの環境では、AIエージェントがデジタル上のオフィス内を動き回り、仮想空間で現実世界の課題を解決する訓練を積む。AI大手のアンソロピックは、こうした強化学習ジムを活用したAIエージェントの訓練に、今後1年間で10億ドル(約1620億円)を投じる計画だと報じられている。
中国で進む「人間の蒸留」は、個人の知識や経験、判断力を切り出し、AIが再利用できるデジタル資産にパッケージ化する試みとも言える。だが、蒸留というプロセスを経た後の人間に、何が残るのかという疑問も浮かぶ。
前出の上海のテック企業の女性社員は、「自分の仕事が今すぐAIに奪われるとは思っていない」と、MITテクノロジーレビューに語った。「ただ、自分の価値がどんどん安く見積もられているように感じる。そして、それにどう対処すればいいのかわからない」と彼女はコメントした。


