人間が“デジタル資産”に変わっていく

ここまで述べてきたように、AIによる効率化とそれに伴う人員削減は、さまざまな批判や反発を浴びながらも進んでいる。だが、テクノロジー業界はいま、AIによって単に人間の仕事を自動化しているだけではない。人間の頭の中にある知識やノウハウ、意思決定のパターンを抽出し、AIエージェントが再利用可能な「デジタル資産」に変える取り組みが広がっている。

ロイターは米メタが4月、自社開発のAIエージェントの訓練データを確保するため、米国内の従業員が使用する会社支給のPCに、操作内容を詳細に追跡するソフトウエアの導入を開始したと報じている。「Model Capability Initiative(MCI)」と呼ばれるこのプロジェクトは、キー入力やマウスの動き、閲覧したコンテンツの画面キャプチャなどを記録し、人間特有のコンピュータ操作をAIに学習させるためのものだった。

だが、当然ながらメタ内ではプライバシーや雇用への影響を懸念する声が噴出。1600人以上の従業員が、会社に対し従業員のPCデータの収集と再利用を停止するよう求める嘆願書に署名した。また、社員らの非公開の会話やプロンプト、文字起こしデータ、業績評価などが「社内の誰でも閲覧できる状態」になっていたことが発覚したこともあり、このプロジェクトは2カ月足らずで一時停止に追い込まれた。

AIの訓練に従業員を利用「理にかなっている」

それでもハイテク大手による同様の取り組みは、今後も続きそうだ。4月にメタが実施した社内会議の音声データが米国の労働問題を扱う非営利メディアMore Perfect Unionによってリークされた。そのなかでマーク・ザッカーバーグCEOが「AIの訓練に従業員を利用することは理にかなっている」と述べていたことが確認されている。

マーク・ザッカーバーグ氏は、「従業員のAI訓練への活用、理に適う」と語ったとされる
マーク・ザッカーバーグ氏は、「従業員のAI訓練への活用、理に適う」と語ったとされる(写真=Jeff Sainlar; Social Producer and Editor, Meta/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「AIモデルは、本当に賢い人々が物事を行うのを見ることで学習する。この会社にいる人々の平均的な知性は、一般的な人々の平均よりもはるかに高い」とザッカーバーグは語っていた。

同様の動きは、小規模なテクノロジー企業でも進んでいる。米フォーブスは4月、事業を停止したcielo24と呼ばれるスタートアップが、社内のチャット履歴や業務データを、数十万ドル(数千万円)規模で売却することに成功したと報じた。

この背景には、AI企業による「実務データ」の争奪戦がある。職場で通用するAIエージェントを育てるには、人間が日々の業務で積み重ねてきた生の作業記録が欠かせないが、インターネット上の公開データは、2024年後半までにほぼ枯渇したとされる。