人や組織には、共通の外敵がいれば一致団結し、いなくなると内部抗争に明け暮れる、という面白い傾向がある。

第二次世界大戦下で結ばれた、「エルベの誓い」など、その典型例の一つだろう。

時は1945年4月25日、ファシズム打倒を旗印に別々に進軍していたアメリカとソ連の軍隊が、エルベ河畔で合流を果たした。このとき両国の軍隊は、両国が協力して、今後は二度とこのような戦争を起こさない、と誓い合ったのだ。

ところが戦後の歴史は、ご存じのように米ソの冷戦を主軸に展開していく。何万発もの核兵器を米ソが保有し合い、ベトナムやアフガニスタンで悲惨な戦争が繰り広げられていった――

こんな人や組織につきまとう、いわば宿痾をうまく利用したのが、今回ご紹介する「隔岸観火(かくがんかんか)」という謀略だ。具体的には、次のように説明されている。

「敵の内部矛盾が深まって乱れたならば、わが方はじっと静観して異変の発生するのを待つ。憎しみと反目から殺し合いが始まり、行きつくところ、自滅の道をたどるに違いない。わが方は高みの見物をきめこみ、果報は寝て待つのである」

この謀略のポイントは、「高みの見物」をきめこみ、成果が出るまでひたすら待ち続けるという点だ。

せっかく敵が内部分裂を始めたのに、こちらがあせって手を出してしまえば、分裂していた勢力が団結して、謀略が水の泡になってしまう。じわじわ時間をかけて、崩壊を待つという粘り強さが何より必要になるのだ。

実は、この「隔岸観火」の発想から、現代のビジネスを眺めてみると、とても示唆深い光景が浮かび上がってくる。

それは、素晴らしい業績を誇っていたはずのベンチャー企業が、なぜ急激に内部崩壊を起こしてしまうことがあるのか、という問題に関わるものだ。筆者は、さる経営コンサルタントから、「会社を傾けるベンチャー社長を見分ける2つのサイン」を、かつて教わったことがある。

まず一つ目は、豪華な自宅を新築して、それを周囲にみせびらかすこと。そして二つ目は、男性社長限定になるが、飲み屋の女性を愛人にすること。

いずれも、業績が安定したことにあぐらをかき、社長が経営をおろそかにして私的な欲望充足に走る、わかりやすいサインに他ならない。

さらに、こんな社長が亡くなると―特にカリスマがあって、ワンマンだったりすると―起こりがちなのが、経営権をめぐる内部抗争だ。ビジネス雑誌には企業における倒産事例の研究がよく載っているが、そのほとんどのケースに関わってくるのが、この骨肉の争いによる経営悪化なのだ。

しかしそんな企業が、創業期から酷い経営状況を続けてきたわけではなかったろう。

創業したばかりの頃は、多くの企業で業績は安定せず、資金繰りも綱渡りと、辛酸を舐め続けるのが当たり前の姿。しかし夢や志を懐いて起業した経営者や社員たちが一丸となって苦境を乗り越え、後の成功を手にしていったわけだ。こんな環境のなかでは、慢心する余裕も、内部分裂を起こしているヒマも、基本的に持ちようがない。

結局、社長が豪邸や愛人に手を出し、内部での権力闘争が始まってしまうのは、会社が、安定した業績を続けられるようになった(ないしはそう期待できる状況にある)からこそなのだ。

「隔岸観火」とは、外敵がいないと内部分裂する傾向を利用した謀略になるが、現代のビジネスでもこれは同じこと。「自分に必死の努力を強いる厳しい環境」という敵が消滅したときにこそ、運命の女神は「自壊」という謀略を仕掛けてくるのだ。