片付けをしない3歳児
我が家のリビングには、「プラレール」が足の踏み場もないほど張り巡らされている。しかも成長し、鉄橋や橋脚を組み合わせた立体的な路線もつくれるようになった。我が家の路線は、日々進化し、拡張を続けている。
注意しないとプラレールに引っかかって思わず苛立つ。それだけならまだいい。気を抜くとプラレールを踏んだ足の裏に激痛が走ったり、危うく転びそうになったりすることも少なくない。寛げる空間であるはずのリビングなのに、常に気を張って過ごさなければならないのだ。
「片付けようよ」。幾度、声をかけただろうか。しかしKは「明日も遊ぶんだから!」と言って片付けない。私たちが片付けたとしても、翌日にはまた新たな路線が敷設されている。困った。なんとか片付けさせる方法はないものか。それが、私自身の“片付けられない”を抜け出すヒントになる気もする。何よりもリビングで安心して過ごしたい。
「成長しても片付けられない」
私は、学習院大学教授で、保育学や教育心理学の教鞭を執る秋田喜代美先生を訪ねた。
「片付けられない原因はいくつか考えられます。もっと遊びたい。おもちゃを大人が出してくれるので片付ける場所がわからない。お気に入りのおもちゃがないと不安になる。いつも大人がやってしまうので、自分で片付ける習慣がついていない……」
秋田先生は「何よりの原因は」と言葉を継いだ。
「片付けられないお子さんのご家庭では、それでよしとされてしまっていること。お話を聞くと、お子さんのなかで、片付けはお父さんの役割になってしまっているのかもしれませんね」
もちろん私だって“ご家庭のなかで、それをよし”とはしたくない。
平日は仕事や家事で落ち着いて部屋を整理する余裕はない。そこで近頃は、土曜日の早朝、Kが起きる前におもちゃを片付けるルーチンができつつある。
我が家の片付け事情を説明すると秋田先生が頷いた。
「寝ているから、お父さんが片付けてくれているんだという意識すらないわけですね。よくわからないけどいつもきれいになっているな、という意識なのでしょう」
Kの“片付けられない”は、私自身を映し出していたのだ。週末に一気に片付けるのではなく、日々少しずつ整理をしたら、Kの意識も変わるのだろうか……。そんな思いを巡らせていた私の胸を、秋田先生の呟きが、ザワつかせた。
「幼少期に片付けられない子は、成長しても片付けられないんですよ」


