要するに、欧州中銀(ECB)による金融引き締めと、それに伴うユーロ高がドイツの実質為替レートの増価に貢献していることになる。とはいえ、仮にドイツがユーロに加盟していなければ、タカ派で知られたドイツ連銀のもと、ECB以上のテンポで金融引き締めが行われ、ドイツの実質為替レートはより急ピッチで増加していたかもしれない。
2025年以降は、いわゆるドル不安の受け皿としてユーロが選ばれ、ユーロ高が進んだことがドイツの実質為替レートの増価につながっている。もしも、こうした実質為替レートの増価がなければ、ドイツのマクロ的な購買力はさらに低下し、供給網の混乱と合わせて、生産制約がさらに深刻化していた可能性が意識されるところである。
供給網の混乱で重要になるはずの円高
ドイツだけではなく、今の欧州では、ユーロ高が概ね好感されている。供給網が混乱している状況では、そもそも最終財を作るための原材料や中間財を入手することができない。モノを作るためのモノを外国から入手するためには、強い通貨を持つことに越したことはない。そうした当たり前のコンセンサスが形成されているように見受けられる。
日本もまた加工貿易で栄えた国であるのに、そうした議論はなぜか退けられる傾向がある。一方、経済安全保障の観点から、供給網の安定化に関しては熱心な議論がなされている。それは結構なことだが、強い通貨がなければ安定した供給網など築けるわけがない。原材料や中間財の供給国が欲しい通貨は、強い通貨にほかならないからだ。
通貨の増価は輸出の抑制要因になるという主張もあるが、そもそも供給網が混乱している状況では、何より優先されるべきは調達の安定化である。モノがなければモノが作れないのだから、まずモノを作るために必要なモノを安定的に調達する必要がある。円安と円高の功罪は局面に応じて変わるのであり、円安が絶対善という見解は誤りだ。
程度の差はあるが、日本企業もまたドイツ企業と同様の苦境に立っている。供給網が混乱しているにもかかわらず、資源のない国が通貨安の修正に取り組もうとしない日本の姿は、それこそグローバルスタンダードに照らし合わせてみれば誠に奇異である。供給網が混乱している折に調達を安定化したいのなら、目指すべきは円高なのである。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

