冬だけ賑わう温泉街

高原リゾートとして知られる妙高にも、混乱は広がった。

新潟県妙高市の赤倉地区は、200年の歴史をもつ温泉街だ。ここでは冬と夏で、町がまるで別の姿になる。

赤倉では近年、外国人による買収が相次いでいる。対象となる不動産は、旅館、スキーレンタルショップ、飲食店などなど。

だが、新たなオーナーの多くは雪にしか関心がないと、英通信社のロイターは指摘する。冬のあいだだけ店を開き、雪が溶けると店のシャッターを閉じて去っていく。かつて温泉客で四季を通じて賑わった街並みも、いまやシーズンオフには人影がまばらだ。

「夏に赤倉に来ると、夜は真っ暗ですよ」。赤倉温泉旅館組合の組合長で、地元で旅館「古屋」を営む中嶋正文氏は、ロイターの取材にそう明かす。

地区内にある約80軒の宿のうち、通年営業を続けているのはわずか10軒ほど。200年続いた温泉街の大半が、冬の数カ月にだけ灯りのともる「季節営業」の町へと変わり果てた。冬の営業期間中でさえ、外国人事業者と地元は歩み寄れずにいる。海外の事業者の多くは、地元の観光協会にすら加わろうとしないという。

中嶋氏はロイターに、海外オーナーや観光客の多くが、ごみの不適切な処理や駐車違反、深夜の花火など、ルール違反を繰り返すとコメント。注意しようにも、「誰が来て何をしているのかまったくわからない。12月にやって来て、春になると消えてしまう」と嘆く。

最近になって中嶋氏は、外国人事業者を対象に町のルールを伝える講習会を開き始めた。

赤倉温泉
赤倉温泉(写真=Raita/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

「大規模リゾート構想」に戸惑う住民

こうして様変わりした赤倉のすぐ近くでは、桁違いの開発計画が動き始めた。総投資額、実に約2100億円。

シンガポールの英字日刊紙のストレーツ・タイムズが報じるこの構想は、シンガポール政府系ファンドGICの元日本代表、チャン・ケン氏(56歳)が主導する。

自らのファンド、ペイシェンス・キャピタル・グループを通じ、妙高高原をアメリカのアスペンやカナダのウィスラー、スイスのサンモリッツに肩を並べる高級リゾートへ変貌させる計画だ。

都合約10年をかけた少なくとも3つのフェーズを通じ、高級ブティックや一流レストランが山中に立ち並ぶ青写真を描く。

実際、過去2年は円安を追い風に、周辺の土地を割安に買い集めてきた。約19年かけて自然発生的に育ったニセコとは対照的に、まず土地を押さえ、開発を一気に加速させる戦略だ。

壮大な構想とは裏腹に、地元の人々は不安を拭えずにいる。

地元で饅頭を売る男性は、ロイターの取材に、「もともといらっしゃる日本のお客様に加えて、外国のお客様も来ていただけるのであれば大歓迎です」との姿勢を示す。

ただし、「今まで来てくださっていた方々が来られなくなって、海外からの観光客だけになってしまうのであれば、それは心配です」とも添えた。

もっとも、プロジェクトはまだ緒に就いたばかりだ。ストレーツ・タイムズによると、第1フェーズだけで今後3〜4年間に5億ドル(約800億円)近くの資金が要る。スキー人口の減少が続くなか外国人観光客に頼らざるを得ないが、富裕層の流入を地元がどう受け止めるか、答えはまだ出ていない。