分散化とともに、もう1つの方向性は権限の集約化です。四輪事業本部長を兼務する私の直下に、大型車、中型車、軽・小型車の分野別に事業統括として3人の執行役員を置き、トップに近い権限を与えて全権を委ねました。6極の地域本部が地域での事業に責任を負うのに対し、この“三奉行”的役員は横串を通し、ブランドごとに事業を成立させる役割を負います。

各地域本部の責任者と情報を共有しながら、その地域でブランドをどのように展開するか、事業コンセプトを明確にし、どの部分は共通化し、どの部分は使い分けをするか、収益のモデルを描き出す。事業の上流概念を決めたら、下流部分は現地に任せる。ブランドの統一性と地域性を両立させ、両面から収益の最大化を図るのです。

ホンダでは従来、開発については独立組織である本田技術研究所が担当してきました。三奉行への権限集約や開発の現地化は研究所を本社に取り込むもので、独立性を損なうとの懸念も聞かれます。ただ、社会が変化するなか、開発に関わる人間に必要なのは新しい外気に触れ、刺激を受けることです。

既存の当たり前が当たり前ではなくなる

これまでは、顧客と接する本社から研究所へニーズをトスするのに時間がかかり、意図が伝わりにくい可能性がありました。お金は研究開発費として支払われるため、開発担当の顔がお金の出元の本社へ向きがちな面もありました。そこで、開発担当も社会の接点に立つ本社の営業担当や調達購買担当と濃密に接する、さらには現場で顧客と直接接して社会の動きを知る。改革はその環境づくりでもあったのです。

開発担当者にもう1つ必要なのは製造現場との協働です。きっかけは東日本大震災で栃木県にあった研究所の施設が一部損壊し、新機種の軽自動車「N BOX」の開発陣が三重県の鈴鹿製作所に一時移ったところ、製造現場との意思疎通が円滑になり、新車投入までの期間が短縮されたことでした。そこで、新年度から開発部隊と調達部隊の一部を鈴鹿に異動させ、開発と調達と製造の担当者が全員一丸となって、1人何役もこなしながら高効率な製造業を目指す壮大な実験に着手します。