――実は、大きな弱点もあった。変化球が打てなかったのだ。

「1軍に上がったばかりの頃は三振王を独走した。カーブが打てない。ノイローゼになるくらい打てない。これが私の短所でした。長所は意識しなくていいが、短所は意識しなくては修復できない。そして短所を補うことができれば長所も伸びる。個人もチームづくりも同じです。では私がどうやって変化球に対応したか。不器用は不器用なりの生き方をすればいいと考えて、配球を読んだ。俗に、山を張る打者は二流とされたが山を張らせたら日本一という自負もあった。試合の展開、相手の心理、配球などの根拠があれば、立派な読みじゃないかと考えました」

田中自身、今季は「漫然と投げているだけではない。打者を観察したり雰囲気を読む。一球一球、意図を持って投げている」と野村元監督の教えを実践している。(時事通信フォト=写真)
――そしてホームラン王に輝くのだが、翌年、さらに翌年と壁にぶつかった。このとき気づきをあたえてくれたのはひとりの先輩だったという。

「野村よ、ぶん殴ったほうは忘れても殴られたほうは忘れないぞ。勝負だから、相手から自分を見ることも大事なんだ。殴られたら殴り返すという当たり前のことに気づかなかった。自分ばかりでなく相手も変わることに気づかなかった。先輩の、あの言葉は未だに耳に残っています。このときからですよ、データに夢中になったのは。相手の自分に対する攻め方が変わったのか変わらないのか。それを知るにはデータしかなかった」

――野球とは何か。冒頭の問いに答えながら広く球界にも気づきを促す。

「野球とは頭のスポーツです。それ以外の答えは出てこない。一球一球の間合いに考え、次に備える。それが野球です。しかし現在のプロ野球は投げて打って、それだけ。苦労して、考え、苦しむというのがないからドラマにならない。オーナーや球団社長には、もっとしっかりしてほしい」

野村克也
1935年、京都府生まれ。南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任。選手・監督として各通算3000試合を経験。5度のリーグ優勝、3度の日本一を含む12度のAクラス入りを果たした。
(大沢尚芳=撮影 時事通信フォト=写真)
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