腐っても良いことは何ひとつない
自分のキャリアにおいて、いくつかの大きな転機になった出来事があります。そのひとつが入社3年目、大阪の自動車販売会社に、19カ月にわたって出向し、セールスの仕事に従事したことです。
取引先の製造現場での指導を行う仕事から一転、自動車のセールスです。個人向けの自動車の営業は、とても大変な仕事でした。競合も多い。高額商品ですから、簡単には売れない。しかも、頻繁に買い替えるものではない。
それこそ、足を棒のようにして何百軒も飛び込み訪問をして、ようやく1件の見込み客に出会えるかどうか、という仕事です。
本社や工場からの出向社員にとっては、本意ではない仕事だったと思います。もしかしたら、腐ってやる気を失った人も少なくなかったかもしれません。
しかし、こういうときにこそ、真価が問われるのです。
私は何か目標を作ろう、と思いました。そのときに知ったのが、セールスの優秀者には、社長賞の表彰がある、ということでした。
本社勤務では、社長賞を取るような仕事はなかなかありません。例えば工場に行けば、生産性向上やTQC活動など、数字で実績を示すことができる仕事があります。ところが、私のいた購買の仕事で社長賞など、聞いたことがありませんでした。
しかし、セールスで頑張れば社長賞がもらえる。出向先で1位になったら、だいたい選ばれているということでした。私は、絶対に1位になろうと心に決めました。
社長賞を目指し1日100軒に飛び込み営業
希望していない状況の中で、自分なりに目標を掲げたのです。こうなれば、一気にやる気がわいてきます。新婚にもかかわらず、5月の配属から3カ月、土日含めて私は1日も休まず、一軒一軒飛び込み訪問をしました。でも3カ月間、1台も車が売れませんでした。セールスの仕事はそう甘くないことを実感しました。
1日最低100軒の飛び込み訪問をしながら、顔写真のスタンプの入った名刺とチラシをとにかく会えたお客様には渡し、留守宅には、ひたすらポストに入れ続けました。出向先で最も厳しいといわれていた営業所長から、「岩田、そろそろ休めや」と言われたほどでした。
結果的に、私はトップセールスマンになり、前任者の8倍、2位の3倍の圧倒的実績を上げ、歴代出向者の販売記録も塗り替えました。粗利益も全セールスマンで2位の成績でした。あまり値引きせず車を売ることができたからです。そして念願の社長賞を獲得しました。得られたのは、名誉だけではありません。私は大きな自信を手に入れたのでした。
そしてこのときの販売会社の社長が、後の日産自動車の常務に抜擢されるのです。このご縁が、後の留学につながっていきました。
ちなみに私以外にも、社長賞を取った同期もいましたが、やはり私から見て「できる」と思っていた同期は、みな社長賞を取りました。優秀な人は、どんな仕事でもきちんと実績を残すのだと改めて思いました。

