カースト制度を超えた長期的視点
スズキは軽自動車「アルト」に800ccのエンジンを搭載した「マルチ800」をもって、自動車をはじめ近代工業そのものがなかったインドに入っていった。それから40余年が経過した。スズキがインドで成功を収めた理由は、一部の富裕層だけを狙ったのではなく、民族も宗教も多様に交錯するマジョリティー(大衆)から支持を得たからではなかったか。高額で豪華な手の届かないクルマではなく、「少し頑張れば届くマルチ800」を、クルマを本当に必要とする人々に供していった。カーストを超え、差別も区別もなく、長期的な視座に立ってである。
iACE(国際自動車センター)は、グジャラート州政府とマルチ・スズキが2015年に合弁で設立した教育機関。グジャラート州を拠点に、学生や産業関係者の訓練と技能開発を推進し、自動車産業を担う人材育成を目的にしている。これまでに生産技術や自動車設計など500以上の企業や団体から、1万人を超える人材に対して教育・研修を実施してきた。
iACEのE.ラジーブ常務は次のように話した。
「現場が基本であり、とても大切ということを鈴木修さんから学びました。
現場についての実践的な教育を、ここでは行っています。将来、インドの産業を担う、学生やいろいろな会社のエンジニアに対し平等にです。現場についての日本の考え方、例えば品質保証がどうして大切なのか、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)について、発生したある問題と解決手法について、新しい技術について、インド人に伝えている。日本の考え方とインドの考え方とを合わせ、世界で起こる諸問題に対しても、答を出せる人材を育てたいと考えています」
鈴木修の教えは、国境を越えてインドの若者たちにも伝えられている。経済成長と格差拡大との間に、「中小企業のオヤジ」の魂が宿る。



