1日100トンの牛糞を取り扱い
CNG車はガソリン車にCNGタンクを装着するだけで使える(CNGは気体燃料なのでエネルギー密度は低くガソリンと併用される)。かつては後付けで荷室にタンクを設えていたが、現在は床下に最初から工場で装着している。
マルチ・スズキの同じ車両で価格を比較すると、CNG車58.9万ルピー(約100万円)に対しガソリン車49.9万ルピー(約84万円)とCNG車の方が2割ほど高い。その一方、燃料代はCNGの方が42%安い(CBGならさらに安い)。走行距離が長いほど、お得になっていく。
メタンを抜いた牛糞の残りかすは、農業用肥料として販売している。
スズキ・バイオガス事業部主幹の山野博之は「CSRではなくあくまで事業。CBGだけではいまのところ採算はとれず、肥料の販売増が黒字化するポイント」と話す。
3月、報道陣に公開した1月開所のカブラ工場では、1日100トンの牛糞を取り扱い、約1.5トンのCBGを生産する。今後、充填スタンドはインド全土に展開していく構想だ。
スズキはインドの主戦場を農村と考えている。小規模な自動車販売店の展開を農村で始めているが、エネルギーの供給を含め農民の生活にまでレンジを広げている。これまで捨てていた牛糞を出荷することで農家の所得はアップ。さらに、新しい雇用も増えていく。
インドの農村部も大気汚染は深刻だ。多くの地域は二毛作なので、耕作地で“野焼き”が広く行われているうえ、農家の多くは調理に薪を燃やしていて、さらに自動車の排ガスなどが原因とされている。
カブラ工場にいたインド人幹部は「何もなかったカブラ地域で、(新しい)エネルギーを作るのは、とてもとても大切なことなんだ」と熱く話す。
インド政府は欧州の動向を見ながらEV普及を推し進めているが、トップメーカーのマルチ・スズキはEV以上にCNG・CBG車に力を入れているのは特徴だ。さらに、今後はバイオエタノールの展開を計画する。
鈴木修は常に貧しい農村によりそった
マルチ・スズキ四輪事業本部長の藤井辰彦は、こんなことを言う。
「インドには『ジュガール』という思想があります。いまあるものを組み合わせて、欲しいものを手に入れていく、というもの。
スズキもゼロから新しいものをつくるというより、知恵を絞っていまあるものから良い車をお客様に提供していく、というのが基本の思想。つまり、ジュガールと“スズキらしさ”は重なり合うのです」
インドには8億頭もの牛がいて、マルチ・スズキには7割のシェアをもつCNG車がある。あるものを組み合わせてCBG事業はスタートした。その先には、貧しい農村の地域経済を活性化させ、10億人をとりこもうとする意図がある。
「インドでは、お金持ちでも、そうでない人でも、『今日より明日は幸せになる』と、みんな考えている」と藤井。
スズキには、超高級車はない。もともと軽専業だったスズキは、貧しき人々に寄り添いながら成長してきた。1978年から経営の指揮を執った鈴木修のもとでだった。鈴木修は、「軽自動車のユーザーは、所得の低い人が多い。(軽自動車税の増税は)弱い者イジメだ」という発言もしている。
インドでも貧しい農村に寄り添っていく。現地の人を育てながら。



