それぞれの州がバラバラに産業政策を行っているドイツだが、国家単位の産業育成やインフラ整備などを担い、統一的な方向に導いているのがKfWであることが、今回の旅でよくわかった。
彼らは10年単位で「ドイツをああしたい、こうしたい」と考えて、世界中から資金を集めて、そこに傾斜配分する。単年度の予算でしか発想できない日本の中央官庁とは大違いなのだ。
日本も古きよき戦後復興の時代には、金融機関が傾斜配分をしていた。国民に貯蓄を奨励し、集まった資金を時には鉄鋼業に、時に半導体産業に振り向けて融資していたのである。
しかし現在の日本の銀行はこれが全くできていない。系列会社と反社会的勢力に貸す以外は全部国債を買っているわけで、今や国債購入を通じて国家の「生命維持装置」と化している。
金融機関の傾斜配分機能がマヒして産業構造の変換が容易には進まない日本に対して、ドイツではKfWが横串となって、融資を通じて国の産業構造を変えていく作業を10年単位で行っているのだ。
旧東ドイツの復興もKfWが前面に立って行ってきたし、ハイテクパークの建設や老朽化した公共施設の整備など、日本でいうところの「国土強靭化計画」もKfWのファイナンスを通じて行われている。日本でも資金を活発に調達しており、間接的に日本の投資家もドイツの近代化を支援しているわけだ。
州がバラバラに動ける統治機構でありながら、国家として傾斜配分できる仕掛けを持っているのもドイツの強みなのだ。
次回は有為な人材を生み出すドイツの教育システムを中心に解説しよう。
(小川 剛=構成 AFLO=写真)