「米を食べるとバカになる」が広まった経緯

慶応大学医学部の林先生が、頭をよくするのにはどうしたらいいかを書いた本で、ポイントが2つあります。その1つが「米を食べるとバカになる」ということだったんです。

この本がベストセラーになって、日本中にこの考えが広まってしまったわけです。こういう例はいくらでもあるんですね。

おにぎり
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たとえば、現在流行っている、「牛乳を飲んで骨粗鬆症を予防しよう」というのも同じです。20年、30年たってみたら信じられないようなことが、平気で常識になるというのは結構多いんです。

この本のもう一つのポイントは、あるものをなめると頭がよくなるということでした。何をなめるのか、わかる人もいると思います。

この本には、それをなめると子供の成績がよくなると書いてあります。この本を私は持っていますが、坊主頭の子供が座っていて、その頭にじょうごでさらさらっと何かかけている挿絵があるんです。呆れたことに、その何かというのは、「味の素」なんです。

今聞けば、ほとんどの人は笑います。おかしいと思います。でも、今、骨粗鬆症で牛乳を無理して飲んでいる人だって、同じようなことをしているんです。

私だって、もし『頭脳』が出た当時にこれを読んでいたら、今のような知識があるわけではありませんから、的確に判断するのはむずかしかったでしょうね。それほど、健康についての情報というのは影響力が強いんです。

ただ、味の素をなめて頭がよくなるというので、本当に子供になめさせてしまった当時のお母さんは、今で言えば『チョコレート健康法』を買うような人だったろうなとは思います。

それはともかく、この本がベストセラーになって、米食低能論が広まったわけですが、この影響は今でも根強いですね。今では、さすがにバカになると思っている人はいませんが、ただ、米をたくさん食べることはよくないというイメージが植えつけられました。

「タンパク質信仰」が決定的になった東京五輪

昭和36年に、「一日一回フライパン運動」が実施されました。

この運動の意味がわかりますか? 別名、「油のオリンピック」と言います。フライパンを使って、油をたくさんとろうという意味だったんですね。

油をたくさんとる国は豊かな国で、油の摂取量が少ない国は貧しいんだという考え方です。この運動が、保健所などを通して推進されました。

それから、昭和38年に、「タンパク質が足りないよ」というコマーシャルが大流行したわけです。たしかクレージー・キャッツの谷啓さんが、「タンパク質が足りないよ」と言うコマーシャルだったと思います。

また、「牛乳や卵や肉は完全栄養食品」というすごい言葉もありました。完全栄養食品というのは、他には何も食べなくても、それだけで生きられる食品という意味ですね。

卵だけで毎日過ごせるのかと考えたらおかしいわけですが、そういう言葉まで出たほど、肉、卵、牛乳をたくさんとることがいいんだと信じられたわけです。

「タンパク質信仰」が決定的になったのが東京オリンピックですね。昭和39年、オリンピックをテレビで見ていた当時の人たちは、おにぎりと味噌汁を食べていて体の小さい日本人は、肉などをたくさん食べる外国人にかなわないと思ったんです。

柔道でも負けてしまうし、走っても遅いし、飛ぶのもダメだと。おにぎりと味噌汁の食生活では、ことごとく外国人に負けてしまうと思ってしまったんですね。

オリンピックで負けるのが悪いかどうかは別問題として、タンパク質をとらないと体が大きくて強くならないと思い込んだのです。