誰しも、社会人になりたてのころは、まずは自分の欲を満たすことを考える。たいていは、お金を稼ぎたい、異性にもてたい、出世したいといったわかりやすい欲だ。

その貪欲さが、働くエネルギーになる。やがて後輩ができ、チームを率いるようになると、仲間のため、会社のためにがんばろうという欲が生まれてくる。それでも個人の欲はなくならない。

それがさらに、社会のためになる仕事がしたいという欲につながっていく。

東海地方で医療法人を経営するY理事長は、クリニックを開業して寝る間もない忙しさのなか、経営者仲間と3人でNPO法人を設立した体験をもつ。

Y理事長の話は、次のようなものだ。

初対面の経営者ふたりとの酒席で「3人で新しいビジネスがやれると楽しいね」という話が出た。このような話はたいがい、酒の席だけで終わるものだ。

ところが翌日、そのうちのひとりから、「市役所がグループホームを設置してくれるところを探している」という電話がかかってきた。

市から助成金も出るらしいのだが、申し込みの締め切りはわずか1週間後だ。それでも、とりあえず申請をしてから、週に1回、金曜の夜に3人で集まることにした。

こうして、2年がかりでNPO法人を立ち上げたのである。

Y理事長にとっては、自分の事業を立ち上げたばかりで、時間がないだけでなく、お金もない2年間だ。

年がたち、そのNPO法人は40人のスタッフを雇うまでになった。