自動化に導入するのは、自社開発の世界一高速の機械。ただ、難しい工程部分への対応に手間取って完成が遅れ、開発費が膨らんでいく。結果、2年目に大赤字へ転落した。そこで、東京からかかってきたのが、「中止勧告」の電話だ。でも、中止したら、ドイツに生産拠点を持とうとした目的は、どうなるのか。

「ここでやめるのは、合理的ではありません。もうわずかで、工事は終わります。そこまでやり、結果を出してから、判断したほうがいいと思います」。会長と社長への具申は、あっさり了解された。やはり、大事な局面では、直訴しかない。そうは思ったが、もともとは「やらなければいけないこと」に黙々と、最大限の努力を重ねるほうが、性に合う。

業績の回復に、ほかにできることを考えて、GEの欧州拠点との連携をまとめる。販路拡大を目指す一般照明用の特殊ランプは、発光する管の外側を、もう1つのチューブ管で包み込む二重構造。自分たちが内側の発光管を、先方が包み込むチューブを受け持ち、完成品は半々で売る契約とした。計画づくりから交渉、生産を軌道に乗せるまで、すべてを1人でこなす。93年1月にBLVの社長に就任。ようやく黒字化がみえてきたところで、帰国となる。

3年余り、様々な苦労が続いた。だが、当時の本社で、その様子を誰もみていないし、中身を知る人はいない。誰にも、何もこぼさず、黙々と取り組んだからだ。

ドイツ語は、仕事の後で語学教室へ通ったが、3カ月で断念。米ベンチャー企業の子会社だったから、誰もが話せる英語に換えた。中学2年の長女と小学校3年の次女は、英語のインターナショナルスクールへ通ったが、早々とドイツ語の世界に溶け込む。一家で旅行にいき、毎年9月下旬にミュンヘンで開かれる世界最大のビール祭「オクトーバー・フェスト」も楽しむ。家族には、会社の厳しい状況は、言わずに通す。

「愼其獨也」(其の獨りを愼む)――独りでいて、誰もみても聞いてもいないときでも、言行を慎んで自分を律する、との意味だ。儒教の四書の1つ『大学』にある言葉で、あるべき姿を黙って貫く大切さを説く。家族がいて独りではなかったが、黙々と最善を尽くし続けた菅田流は、この教えに重なる。