タイより深刻だったカンボジア
【村田氏】児童買春について調べていくと、毎年被害者が世界で200万人出ていることがわかりました。しかも、ほとんどの場合、騙されて連れて来られ、監禁や電気ショック、拷問を受けたり、麻薬漬けにされたりしています。逃げ出そうとすると見せしめのために、皆の前でお腹を刺されて出血多量で死んでいった女の子の例もありました。尊厳や将来をすべて奪われ、生まれ育った村に戻ると今度は売春婦と蔑まれる。こんなひどいことが本当にあるのかと思い、東南アジアの現場に足を運ぶことにしたんです。
資料に出ている話は誇張でも何でもなかった。最初に訪れたタイで、児童買春の実態を目にした村田氏は、次にカンボジアを訪問する。児童買春がなくなったわけではないが、改善されつつあるタイと比べると、カンボジアの問題はより深刻だと聞いたからだ。
カンボジアの現場は予想以上に最悪だった。売春を強要されている少女の年齢がタイでは10代なのに対して、カンボジアでは10才未満も少なくない。加害者の多くは、幼い子どもを性的対象とする外国人観光客。そこには日本人も含まれている。
【村田氏】幼稚園児ほどの年齢の子ばかりが入所している被害者の保護施設では、皆、子供らしくないというか、静かで表情がない。泣いたりいやがったりすると即座に暴力を受ける環境にいたからです。だから施設でのカウンセリングはここでは泣いてもいいんだよと伝えて、感情を表に出してもらうことから始めなくてはなりません。その施設では、親の借金のかたに1万円で売られた6才の子と仲良くなりました。彼女が私と別れ際に泣きながら『遊んでくれて楽しかった』と言ってくれた。遊ぶのが仕事のはずの小さな女の子です。私はこの子を助けられなかった。すぐに行動を起こさなくてはと考えました。
帰国後、村田氏はこうした問題に取り組む団体の講演会に足を運び、国際会議にも参加した。加害者を出さないために法律を厳格に適用し、買春を防ぐために性教育を徹底させるべきだという提案を文書にまとめて会議にも提出した。この文書は国連の正式文書として登録もされている。だが、児童買春をなくすための具体的な公的対策が講じられる気配はなかった。