未払い賃金の支払いを求める訴訟

同時にスポットワーク協会は厚労省の見解を踏まえたうえで、企業都合のキャンセルは先に述べた3項目としたほか、24時間を切ってからの解約は休業手当として給与を満額支払うこととするなどの内容をまとめたリーフレットを公表。同年9月より、新ルールに基づく運用を始めるよう、企業やアプリ事業者らに周知した。

新たな動きは司法の場にも波及した。未払い賃金の支払いを求める訴訟は昨年10月以降、少なくとも3件起きており、いずれも企業に支払いを命じる判決が出されている。

直前キャンセルされた大学生が賃金支払いを求めて提訴
直前キャンセルされた大学生が賃金支払いを求めて提訴。代理人を務めた牧野裕貴弁護士は記者会見を開き「(ワーカーは)泣き寝入りせずに権利を行使してほしい」などと呼び掛けた(2025年10月31日、厚生労働省、牧野弁護士提供)

原告の1人は都内の大学に通う男性(20代)。1人暮らしをしながら、タイミーを利用して得た収入を生活費などにあてていた。ところが、昨年5月に東京・渋谷区の飲食店から、同年6月に横浜市の飲食店から、それぞれ勤務日の前日にキャンセルされてしまう。別の仕事を探したものの見つからず、見込んでいた収入を得られなかったという。

キャンセルによる未払い賃金は300億円?

裁判ではいずれの飲食店側も期日に出廷せず、裁判所は請求通り計9700円の支払いを命じた。提訴したケース以外にも複数回にわたって直前キャンセルを経験したという大学生は取材に対し、次のように語った。

「こちらは働くために時間を空けているのに、収入がなくなるのは困りました。便利な働き方ですが、お店は(事実上)好きなだけキャンセルができて、僕らにはペナルティがあるのは、アンフェアな仕組みだなというもやもや感もありました。一時は泣き寝入りするしかないと諦めていたので、裁判をしてよかったです」

大学生が勝ち取ったのは9700円だが、業界全体ではキャンセルによる未払い賃金は過去3年間で300億円に上るという試算もある。タイミーが設立したスポットワーク研究所によると、スキマバイトの過去3年の市場規模は約2319億円。企業都合によるキャンセル率は10〜15%とされることなどから導き出されたデータである。

大学生の代理人である牧野裕貴弁護士は「厚労省による労働契約成立のタイミングについての見解は法律の解釈をあらためて示したものであり、(新ルール開始前の)9月1日以前にも適用されると考えます。今回の訴訟を通し、飲食店側の賃金未払いは違法状態であることが認められました。過去のキャンセルについても賃金を請求できることを、多くのワーカーに知ってほしい」と話す。