谷崎重幸(法政大学ラグビー部監督)
名将の顔がゆがむ。高校と大学の違いがあるとはいえ、ここまで勝てないとは……。大学ラグビーの名門、法政大学の谷崎重幸監督は漏らした。「負の連鎖になっていると思う。勝たせてやれなかったのは、学生に申し訳ないと思います」と。
法大OBの55歳。高校ラグビー界での華やかな実績を引っさげ、今年、母校の監督に就任した。法大史上初のフルタイム監督。期待の大きさはともかく、先の関東リーグ戦グループでは大東文化大にも敗れ、1勝4敗となってしまった。
接点やタックルでからだを張りながらも、ハーフ団(スクラムハーフとスタンドオフ)の組み立てが悪く、どうもリズムに乗り切れない。攻め込んでのハンドリングミス、不用意なペナルティーで、チャンスをことごとく、つぶしてしまった。
「(高校と大学は)やっていることは変わらないと思うんですけどね。わたしがまだ、(大学ラグビーに)浸透してないからでしょう」
かつてはスパルタ指導で鳴らしたけれど、最愛の妻の早すぎる死をきっかけに、残された子どもたちとニュージーランドに渡った。そこで指導哲学が変わった。心からラグビーを楽しむ姿を目の当たりにし、帰国後は「自主性」を重んじる方針に転換した。
その後、平成19年度に全国高校大会で初優勝し、21年度から3連覇を達成した。昨年春、監督を勇退し、部統括として後進の指導にあたっていた。
大学でも、高校時代と同じく「自主性」と「笑顔」を重んじる。「人間力」を大事にする。学生たちには春から「ホンモノのラグビーをしよう」と言い続けてきた。
「ラグビーを純粋にやる。さらには人間力。チームにどれだけ貢献するかということだと思います。人としての充実感、満足感、達成感。チームに貢献したという喜びが本当の笑顔になると思うんです」
「人間力」を見る場合、一番わかりやすいのがディフェンスだという。
「どれだけタックルできるか。泥臭く、ひたむきに、謙虚に、です」
チームのためには、「家族」のためにと置き換えてもいい。強いチームというのは、家族のごとく、絆で結ばれていないといけない。谷崎監督はそう、思うのだ。
「本当にチームのため、とことん尽くせるのか。チームのために、あるいはチームメイトのためにする、いわば“恩返し"ですよね。そういったプレーが、チームを支えてくれると思うのです」
ホンモノのラグビーをしよう――。どうしたって、谷崎監督のベースは教育者である。名門復活へ。まずは人間作りからである。