そもそも日本は、手ぶらでワシントンを訪れたわけではない。昨年の関税の一時停止と引き換えに公約した対米投資は総額5500億ドル、日本のGDPの1割を超える。
それでもトランプ大統領は満足しない。ブルームバーグによると、同氏は、「日本や他の誰からも必要なものはない」と言い放つ一方、在日米軍約4万5000人の駐留コストを持ち出して、「日本に多くの費用をかけている」と不満をにじませた。
海外主要メディアが高市政権の分析を定期的に求める米公共政策の名門のシラキュース大学マックスウェル行政大学院のマルガリータ・エステベス=アベ准教授(日本政治経済)は、この5500億ドルの公約を「高額の用心棒代」と断じている。
日本の政府にも企業にも、これだけの額を容易に工面する余裕はない。しかも投資先は事実上、アメリカ側が決める。金は出すが、使い道は決められない。それでもなお、次の支払いを求められる。差し出すほどに、日本はかえって足元を見られていく。
台湾発言が招いた対米依存の罠
高額の投資を約束してなお、「真珠湾」を槍玉に挙げられる日本。日本がこれほどトランプ政権に従順にならざるを得ないのは、高市氏自身が自ら陥った外交的な袋小路のためでもある。
高市氏は2025年11月の国会答弁で、中国が台湾を武力制圧しようとした場合には自衛隊が介入しうると示唆した。米ビジネスニュース専門局のCNBCなどがすでにアメリカでも報じているように、中国はこの発言に猛反発し、報復に出た。日本産水産物の輸入を停止し、自国民には訪日自粛を勧告。訪日中国人観光客は激減した。
マックスウェル行政大学院のエステベス=アベ氏は、高市氏としてはトランプ大統領に対し、アメリカと共に中国に立ち向かう覚悟を示す狙いがあったと分析する。だが、中国は日本にとって最大級の貿易相手国であり、報復で被った痛手は大きかった。
日本以外のアメリカの同盟国は、中国との関係を強化し、対米リスクを分散する余地がまだ残っている。日本だけが、その道を自ら閉ざした格好だ。
エステベス=アベ氏は、今回の首脳会談を、「東アジアにおけるアメリカ覇権の終焉という物語の重要な一章」だとみる。「アメリカに依存しすぎると属国になる。韓国はこのメッセージを明確に受け取っている」と分析し、対中ヘッジの道を断った日本が、皮肉にもアメリカの他の同盟国に対して「脱・アメリカ依存」を促す反面教師になっているという警告だ。
トランプは日本より習近平を優先した
日米の「黄金同盟」が、いかに脆い土台の上に立っているか。それを物語る一本の電話がある。
米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルによると、高市氏の台湾発言に中国が激怒した直後、トランプ氏は中国の習近平国家主席と約1時間の電話会談を行った。同日、高市氏にも電話をかけ、台湾の主権問題で中国を刺激しないよう助言している。
高市首相の国内政治上の制約は承知のうえでの控えめな忠告だったが、日本側の当局者はトランプ大統領の姿勢に懸念を覚えた。前月の米中デタント(緊張緩和)を守りたいという思惑が透けて見えたからだ。
