日本側がそう受け止めたのも無理はない。中国側の発表によると、習近平氏は、「台湾を中国に返還することは戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」とトランプ氏に強調している。台湾は第二次大戦終結まで日本の統治下にあり、終戦とともに日本から分離された。内容を知る関係者は、この「戦後秩序」への言及を、敗戦国としての日本の立場を暗に突くものだと読み解く。
一方、アメリカ側にとっての主要議題は貿易だった。中国が約束した農産物購入の遅れを問題にしたという。台湾という安全保障上の利益と、大豆という通商上の利益。トランプ氏はその両方を、同じ通話のなかで天秤にかけていた。
通話の順序も見逃せない。トランプ大統領がまず電話したのは習近平氏であり、高市早苗首相はその後だった。アメリカの外交問題評議会のマシュー・グッドマン氏(元オバマ政権アジア担当)は「米大統領が中国と日本の首脳双方に電話すること自体は驚くことではない」と認めつつも、「電話の順番は興味深く、東京では眉をひそめる人が少なくないだろう」と指摘する。アナリストたちはこの順序に、対中貿易を優先し同盟国を後回しにする意図があったと読み取る。
ホルムズ派遣拒否なら台湾発言と矛盾する
さて、高市早苗首相が台湾発言で自ら招いた対米依存は、思わぬ形で早くもリスクが浮上することになる。2月28日、アメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始したのだ。
トランプ大統領がホルムズ海峡への艦艇派遣を呼びかけるなか、高市首相は国会で、「現時点では艦艇を派遣する計画はない」と明言した。米公共放送網のPBSも伝えたように、最大の壁は憲法上の制約だ。
ほか、派遣を拒む根拠には事欠かない。米外交政策オンライン誌のレスポンシブル・ステートクラフトによると、日本国民の82%がアメリカのイラン攻撃に反対しており、安全保障の専門家の大多数もこれを「違法かつ不当な戦略的失策」と批判している。同誌は、戦闘海域への艦船派遣をめぐる法的・憲法上のハードルも極めて高いと指摘する。
結果としては艦艇を送らない方向で決着しそうだが、日本としてはアメリカが始めた戦争の代償から逃れることはできない。原油輸入の9割以上を中東に頼る日本では、ホルムズ海峡の封鎖で石油価格が跳ね上がり、政府は戦略備蓄の放出に追い込まれた。
高市氏にとってさらに厄介なのは、台湾有事への適用を見据えてきた「存立危機事態」の法理だ。集団的自衛権の行使要件であるが、石油の供給途絶さえ理由に挙げれば、ホルムズ海峡への派遣にも同じ法理を援用できてしまう。台湾のために用意した論理に、高市氏自身が縛られかねない。
35年前と同じ板挟み
ホルムズ海峡をめぐるジレンマを、日本は35年前にも経験している。
1990~91年の湾岸戦争では、国連決議のもと米主導の多国籍軍がクウェート解放に乗り出し、アメリカは日本にも自衛隊の派遣を求めた。だが海部俊樹首相(当時)は戦闘部隊の投入を拒み、機雷を除去する掃海艇の派遣すら停戦後まで見送った。
