計算ドリルより「料理」や「旅行」が脳をフル回転させる
その代表例の一つが「料理」です。実は、料理は非常に高度で複雑な知的作業だと言えます。
たとえば料理を作る際の工程を思い浮かべてみてください。「冷蔵庫にある食材を見て何が作れるか考える」「献立を立てる」「足りないものをメモして買いに行く」「火加減を調整しながら複数のコンロを使い分ける」「すべてのおかずが温かい状態で食卓に並ぶよう逆算して調理する」。この一連の作業には、記憶力や判断力、複数のことを同時にこなす力、そして手指の細かな動きなど、脳のさまざまな機能が総動員されています。
「旅行の計画」も同様です。「どのルートで行けばスムーズか」「予算内に収まるか」「一緒に行く相手は喜んでくれるか」と試行錯誤する過程では、段取り力や想像力、判断力などが自然に使われます。
つまり、誰かに用意された課題をこなすよりも、日常生活の中で自分で考え、選び、工夫するというプロセスこそが、実は優れた脳のトレーニングになるのです。
「脳を使わない」現代社会の弊害
少し振り返ってみると、現代はあまりにも便利な道具にあふれています。かつては、外出する際にスマートフォンの地図アプリはありませんでした。大きな地図を広げて経路を確認し、時刻表をめくって乗り換えを調べ、どうすれば目的地にたどり着けるのか考えながら移動していたものです。ドライブでも、助手席の人と「こっちの道が早そうだ」「あそこは込むから迂回しよう」などと相談しながら進んでいました。
また、親戚や親しい友人の電話番号をいくつも暗記していた時代もありました。覚えておく必要があったからこそ、脳は必死に記憶を保持しようと働いていたのです。実は、こうした「不便さゆえの工夫や記憶」は、ドリルよりもはるかに実践的で高度な脳トレになっていました。
しかし今は、アプリが瞬時に答えを出し、カーナビの音声に従えば考えなくても目的地にたどり着けます。便利な道具を否定するつもりはありませんが、脳が「自分で覚えたり考えたりしなくていい」と判断すれば、それだけ使われない脳の領域が増えてしまうという弊害もあるのです。

