「制裁」の代償は中国航空会社に集中

皮肉なことに、この「制裁」で最も痛手を負っているのは、発動した中国側の航空会社だ。

航空コンサルティング会社ASMのハン・ジャオ氏は、日中便の大幅な削減について、「(中国の)国内航空会社に短期的な財務的圧力をもたらすことは間違いない」と警告する。

アビエーション・ウィークが伝えた同氏の分析によれば、圧力が最も強まるのは2026年2月の春節旅行シーズンだ。旺盛な訪日需要が見込まれるはずの時期に、大量の払い戻しと減益が集中する。各社はすでに国内線や日本以外の国際線への座席振り替えに追われているという。

なかでも中国東方航空は厳しい。ブルームバーグによれば、同社の日本路線は年間約1万6000便にのぼり、中国本土の航空会社のなかで対日輸送力は最大だ。運航規模が大きいだけに、減便の傷も深い。

進入禁止の標識越しに見える中国の旅客機
写真=iStock.com/SCM Jeans
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繰り返される中国の「観光カード」

中国が観光を外交の武器として使ったのは、今回が初めてではない。「制裁」のたび、中国人旅行客の行き先は変わる。そのたび、周辺国があたかも当番制のように、増えた旅行客を受け入れてきた。

2017年、韓国が米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備した際、中国は報復として韓国への団体旅行を事実上禁止した。韓国の観光業界は深刻な打撃を受けたが、中国人旅行者の需要が消えたわけではない。行き先が日本や東南アジアに移っただけだった。制裁の標的から外れた周辺国が漁夫の利を得る。その構図は、このとき既に鮮明だった。

東京はソウルと同じく、北米とアジアを結ぶ乗り継ぎの要衝にある。米航空業界専門誌のエアライン・ウィークリーは、両都市はハブとしての接続性が高く、中国やロシアと欧米の対立が深まり直行便が制限されるたびに、代替ルートとしての存在感を増してきた――と振り返る。

2023年には、米中間の空路が絞られた。コロナ禍前には1日最大50便飛んでいた米中直行便は、政治上の対立を背景に、週わずか20便にまで減った。このとき、中国からあふれた旅客需要を吸収したのは、やはり東京とソウルだった。

中国からの旅客が急増する年もあれば、急減する時期もある。こうしたパターンに関連諸国はもはや慣れっこになっている。