毎日「クビや、辞めろ」子会社幹部はついに不正に手を染めた

私の著書では、この連鎖を次のように描きました。

取締役(マンガ)「決算なんて見せ方次第でどうとでもなりますよ」

マンガでしたので、かなり露骨に表現したつもりです。社長から「決算を整えろ」と命じられた鈴木取締役は、「大事なのは株主が安心することです」と自らを正当化します。

その重圧は現場の営業部長へと下ろされ、部下に向かってこう叫ばせます。

営業部長(マンガ):「納品は先でいいからとにかく今月中に契約を取ってこい‼ 契約さえあれば今期の売上になる‼」
部下:「でも部長、Y社との契約は正式調印が来月になりそうです」
営業部長:「内容は後で調整してもいい! とにかく日付が今期であることが重要なんだ‼」

そして、なぜこんなことをするのかと戸惑う部下に、営業部長はこう漏らします。

部下:「あの……契約だけで売上にするのは会計上問題ないんですか?」
営業部長:「上からの指示だよ……契約さえあればなんとかなるって……」

現実のニデックでも、連鎖の末端にいる現場(子会社幹部)は逃げ場を失っていました。報告書のヒアリングには、当時の悲痛な叫びが記録されています。

子会社幹部(現実):「出来なかったら徹夜してでもやれ、出来るまでやれの繰り返しであり、叱責どころではない。(中略)毎日怒号をやられて、お前はクビや。辞めろ。と散々毎日言われている」「私としてはこれ以上のプレッシャーには耐えきれなかったというのが実態である」(報告書 p.215)

結果として、彼らは厳しい追及から逃れるため(一時しのぎのため)、実体のない架空売上や、在庫の不正な計上といった「帳簿のトリック」に手を染めることになったのです。

「王道経理」を指示した永守イズムはなぜ守られなかったのか

永守会長は「赤字は罪悪」とする一方で、「王道経理(正しい会計処理)をしろ」とも指示していました。なぜ、その建前は現場に届かなかったのでしょうか。このような、人が不正に手を染めるメカニズムを「不正のトライアングル」という理論で説明することができます。以下、拙著より引用します。

アメリカの犯罪学者ドナルド・R・クレッシーは、人が不正行為に手を染めるとき、そこには必ず「①動機」「②機会」「③正当化」という3つの要素が揃っていると提唱しました。これは「不正のトライアングル」と呼ばれ、会計不正を理解するうえで非常に重要な考え方です。

1.動機(プレッシャー)

これは、「過度なノルマ」や「株価維持」といったプレッシャーにより、不正を行わざるをえない、あるいは行いたくなるような「追い詰められた状況」のことです。(中略)

2.機会

これは、内部統制の不備やワンマン経営など、不正ができてしまう環境のことです。(中略)

3.正当化

これは、「会社のためだ」「これは調整だ」などと不正を犯す自分自身の良心を麻痺させるための「言い訳」のことです。(中略)不正のトライアングルが示す3つの要素がパズルのピースのようにカチッとはまったとき、人は不正への一線を越えてしまいます。