ニデックに起きた「不正のトライアングル」
ニデックの現場に起きていたのは、まさにこのトライアングルの完成でした。
① 動機(プレッシャー)――“S級戦犯”の烙印
「王道経理をしろ」と言われつつも、非現実的な目標を押し付けられ、未達なら「S級戦犯」として人事上抹殺される。この強烈なプレッシャーこそが、不正への最大の「動機」でした。
② 機会――“与しやすい相手”と化した監査法人
拙著では、帝国重工が不正を指摘した監査法人を交代させ、不正を黙認する監査法人を意図的に選んでいたことが「機会」として描かれていました。ニデックでも報告書は、役職員が長年の会計監査人であったPwC京都を「説得しやすい相手」「与しやすい相手」と捉え、不正確な情報やミスリーディングな情報を与えて都合の良い意見を引き出そうとしていた実態を厳しく指摘しています。
さらに、永守氏直轄で秘密裏に実施されていた「特命監査」では、会計不正を発見しても直ちに是正せず、業績への影響を配慮して複数期にわたり「計画的に処理」するよう指導していた事例もありました。内部監査部門も、不正の根本原因が本社からの業績プレッシャーにあると認識しながら、あえてその問題に切り込むことを回避していました。こうした牽制機能の不全が、不正を「できてしまう」環境を作り出していたのです。
③ 正当化――“構造改革費用”という言い換え
そして「これは会社のための一時しのぎだ」という「正当化」。拙著に登場する鈴木取締役が「“粉飾”って言い方はやめろよ。“決算調整”と言ってくれ」と言い換えて罪悪感を薄めたように、ニデックでも本来処理すべき「負の遺産」を対外的に「構造改革費用」と称して発表し、問題の本質を覆い隠していました。
「社内報告だから」不正の正当化のメカニズム
さらに衝撃的なのは、報告書に記録された管理部門担当の執行役員による次の証言です。
管理部門担当の執行役員(現実):「Nidecでは、いい加減な財務会計の事を管理会計と呼んでいる。社内報告だからいいだろうと言っているがこれは是正しないといけない。取締役会にも虚偽の報告が行われている。(中略)通常の管理会計ではなく本来の財務会計をいい加減に実施しているだけである」(報告書p93)
この証言は、「正当化」のメカニズムを生々しく浮き彫りにしています。「管理会計だから」「社内報告だから」という言葉が、いい加減な財務会計を正当化する免罪符にされていたのです。しかも、CFO自身も「虚偽数値なので取締役会への報告はやめたい」と認識していながら、やめられなかったという事実は、プレッシャーの凄まじさと牽制機能の崩壊を同時に物語っています。
