政治家や経営者・社長など組織のトップは複雑な事情や思惑が絡み合う状況を課題解決に向けて冷静に判断しなければならない。成人発達学者の加藤洋平さんは「アメリカの著名な発達測定研究機関が歴代大統領の思考の複雑性に関する調査をしたところ、その結果には大きなばらつきがあった」という――。

本稿は、中竹竜二・加藤洋平『「人の器」の磨き方 リーダーシップ・コーチングと成人発達理論による人間力の変容プロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

ホワイトハウス前で振られるアメリカ国旗、2013年の大統領就任式の様子
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歴代米国大統領「思考の複雑性」調査

私(加藤)はかつて、米国マサチューセッツ州にあるレクティカ(Lectica, Inc)という発達測定研究機関で分析アナリストとしてインターンをしていたことがあります。

レクティカのクライアントは、民間企業や教育機関だけではなく、NSA(米国国家安全保障局)、CIA(中央情報局)、FBI(連邦捜査局)といった国家機関に及びます。

そうした特徴を持つレクティカの創設者のセオ・ドーソンはかつて、歴代米国大統領の思考の複雑性に関する大変興味深い調査を行いました。

直面する課題の複雑性に押し潰されずに、課題を分析し、課題の解決に向かっていくことは政治家として重要な資質であり、それは経営やスポーツの分野においても重要な資質でしょう。人の器を構成する数ある要素の中でも、思考の複雑性は非常に重要なものだとレクティカでは考えます。

それでは、ドーソンが行った、歴代米国大統領の思考の複雑さが、彼らの職務が直面する課題の複雑さにどの程度適応しているのかを調べた調査の結果を紹介しましょう。

複雑な思考ができるリーダーは誰か

これまでの研究のまとめによると、リーダーの思考の複雑性は、その人がリーダーとしてどれだけ職務遂行できるかを予測するうえで、非常に強力な指標であることがわかっています。つまり、より複雑な思考ができるリーダーほど、困難な職務においても高い成果を出す傾向があるのです。

また、国家リーダーが扱う課題――例えば、国際問題、経済、医療、気候変動など――の多くは、レクティカが採用する思考の複雑性の指標の12段階の中でも最も高い「原理・原則的思考(レベル12)」が求められることが明らかになっています(原理・原則的思考とは、複雑で多元的な状況を、普遍的な原理や価値体系に基づいて体系的・統合的に捉え、判断・行動できる高度な思考力のことです)。

ここで述べている思考の複雑性レベルとは、複雑に絡み合う多くの要素を整理し、体系的に思考をまとめ上げていく力の度合いを指します。

ただし、個人の思考の複雑性を正確に測るためには、その人が「最もよく考えている場面」での言葉や思考が必要になります。しかし、大統領がそのような最高レベルの思考を発揮する場面を直接観察することは難しいため、ドーソンの調査では、著名なジャーナリストとのインタビューでの発言を分析対象としました。