“軍略だけ”に集中できるポジション

つまり、あくまで秀吉の横についているコンサルという立場。これなら、政治的調整、根回し、雑務など面倒なことは、全部秀吉にやらせて(いや、実質面倒なことをやるのは秀長だろうけど)、自分はコア業務(軍略)だけに集中することができる。

いわば、エンドクライアントとの交渉はPMに任せて、自分はデリバリーだけやるサブコン最強ポジションである。

しかも、この構造には副次効果がめちゃくちゃおいしい。秀吉が半兵衛を「自分のもの」だと思うため、秀吉自身が半兵衛の価値を、勝手に社内=信長家臣団で売り込んでくれる。クライアントが自分のセールスをしてくれるわけだから、経費も手間もかからない、非常に効率的な営業である。

のちに半兵衛は宇喜多氏の備前八幡山城を調略し、信長に報告した際には銀子100両を授けられているが、これも秀吉が「いや、ウチの半兵衛ってすごいんですよ」と触れ回ってくれていた効果だろう。

ここで、半兵衛が幸運だったのは、案件がまったく途切れなかったことだ。浅井氏との戦いから、中国遠征へと半兵衛は一箇所にとどまらない。

常に「次の案件がある」状態を保つことで、クライアント側に「引き留めなければ」という緊張感が生まれる。

紙本着色竹中重治像
紙本着色竹中重治像(写真=岐阜県竹中重時氏旧蔵/PD US expired/Wikimedia Commons

最も優れていた「ナラティブを生み出す能力」

もちろん、半兵衛だって「これだけ手柄を上げたから、もういいかな」と思うことはあっただろう。凡人であれば、横山城あたりで「随分頑張ったなあ〜やれやれ」となってしまうところだ。

ところが、そうはしなかった。一箇所に長くいると「いて当たり前」になる。報酬は下がり、扱いは雑になることがわかっていたからだ。転戦し続けることで、常に「新規案件を受けた直後」のモチベーションと希少性を維持できる。とにかく止まらないことを自分に課していたかのようだ。もっとも、そんなハードワークを続けていたら、長続きしない。半兵衛が若くして死んだのはワークライフバランスのミスである。

さて、そんな半兵衛のもっとも優れた点は、相手が信じたくなる形でナラティブを生み出す能力を持っていたことだろう。最初に記した、半兵衛が稲葉山城を返す時のことをみてみよう。

半兵衛は、城を返すときに自ら龍興を諌めて諭したということになっている。

実際のところ、乗っ取りは無理と判断したのかもしれないが、それでも「はい、返します」とはしなかった。

わざわざ大仰に「斎藤家の行く末を憂いて」という大義のナラティブを添えたのだ。これによって、自身の「格」を作り上げたのだ。