乗り物酔いの原因が見えてくる
実験ではお猿さん(リスザル)をぐるぐる回し、車酔いと同じような状態を作ります。するとお猿さんも酔って吐いてしまうのですが、それをどうすれば止められるのか、いくつかの薬の注射などを使いながら研究を続けたのです。
何だかお猿さんがかわいそうに感じますね。でも「仕組み」や「原因」を解明するのに動物実験は欠かせません。それもできればネズミなどよりも、人に近い霊長類での実験のほうがいいのです。
お猿さんを使った乗り物酔いの研究は、宇宙酔いの予防法と治療法を見つけるため、大切な研究でした。ただその時は石井先生自身も、むなしさを覚えていました。
(こんな研究が本当に宇宙で役に立つんだろうか。めまいや耳鳴りの治療も進歩するのだろうか)
毎日毎日お猿さんにバナナやマシュマロなどのエサをあげて世話をする、そしてお猿さんを回して人工的に乗り物酔いを起こし、彼らに薬を投与するのですから無理もありません。でも実験をくり返すうち、乗り物酔いの症状には「自律神経」が深く関わることがわかってきました。
自律神経とは私たちの意思とは関係なく、呼吸や発汗、心拍、体温調節といった、生命活動を維持するために休まず働いてくれる神経です。石井先生がここで実験したことは、その後何十年も研究を続ける上での土台になりました。
またともに研究する仲間にも出会えました。石井先生がベイラー医科大学に留学した1984年ごろ、ほかに3人の日本人医師が同じ研究所に留学したのです。そのうちの一人、宇佐美真一先生とは馬が合い、帰国後も親しく交流を続けることになります。
宇佐美先生も、石井先生と同じ耳鼻咽喉科の医師。当時を振り返ってこう言います。
「ぼくより半年くらい前から石井先生が研究所にいてね、右も左もわからないヒューストンの地で、生活のことをふくめていろいろ教えてくれたんですよ」
車の運転免許の取り方、ごはんを食べる場所や日用品を買うお店はどこがいいか……。「そうそう」と、宇佐美先生は思い出したようにくすりと笑って「月に1回、交代で休みをとったなぁ」となつかしそうに話しました。
研究所には、休みがありませんでした。ふつうの日本の会社なら休みとされる、土曜や日曜も、夏のお盆休みも、お正月も五十嵐教授は休まず出勤します。五十嵐教授は出勤すると実験室の様子を見にくるので、日本人の留学生たちも休むことができなかったのです。

