耳が聞こえなくなる原因には、どのようなものがあるか。児童書『宇宙飛行士を支える医師 “宇宙酔い”への挑戦』(金の星社)では、「聞こえない」と訴える子どもたちを診察する模様が描かれる。現代では聞こえないフリをする「詐聴」は100%見抜けるというーー。

耳が突然聞こえなくなった小学生

「看護師さん、次の人を呼んでください」

JCHOジェイコー東京新宿メディカルセンターの石井正則まさのり先生がそう言うと、看護師さんが待合室にいる患者さんに声をかけます。

次は、小学6年生の女の子と、そのお母さんが診察室のドアを開けました。お母さんは診察室に入るなり、「先生」と大声でせまってきます。

「うちの娘が突然耳が聞こえなくなってしまいました。何を話しかけても返事をしないんですよ!」

あわてるお母さんと、だまったままの女の子に石井先生のメガネのおくが光りました。

「まぁまぁ落ち着いて。いつからですか」

女の子のお母さんは考えるように自分のひざもとを見つめ、数秒して顔をあげると、「下の子の塾があった日なので火曜日。そう、3日前からです」と答えました。

「それでは早速、診察しましょう」

まずは検査室で一般的な聴力検査を行いました。みなさんも学校で検査をしたことがあるでしょう。頭にヘッドホンをつけて、音が聞こえると、ボタンをおして「聞こえています」という合図を送る検査です。

女の子の手もとは動きません。石井先生は、その検査データを見ます。

「聞こえないみたいね。じゃあもうひとつの検査をしましょうね」

耳の痛みに苦しむ女性
写真=iStock.com/P Stock
※写真はイメージです

医師から母に告げられたひとこと

石井先生が明るく話しかけました。女の子は沈黙したまま、無表情で前を見つめています。やはり聞こえないのでしょうか。お母さんに背中をおされて、女の子はうながされるように立ち上がりました。

そしてちがう検査室に行くように技師さんへ指示を出しました。別の部屋で、技師さんは小さな耳栓のようなものを手にし、女の子の耳にはめました。

耳栓には手のひらサイズの電子機器がつながっています。石井先生はその機器に映る検査結果をじっと見つめました。

それから数十秒――。「うん、なるほどね」と、石井先生はひとりうなずきます。女の子のお母さんに顔を向けて話しかけました。

「あちらの部屋でお子さんの状態をくわしく説明しましょう」

お母さんは真剣な表情でうなずきます。石井先生は女の子のそばにいる看護師さんに目配せをすると、となりの部屋に向かいました。

となりの部屋でお母さんと二人きりになると、石井先生はひとことこう告げました。

「ご安心ください。お子さんの耳は、ちゃんと聞こえています」

女の子のお母さんは、目を見開いて立ち上がります。

「ウソ!」