八雲を「変人すぎて面白い」と思えるかどうか

もうひとり、もっとも八雲と親しくした生徒として、丸山は後に神奈川県知事などを務めた安河内麻吉を挙げている。安河内との親しさは群を抜いていて、彼が進学する際には、わざわざ東京帝国大学のチェンバレン教授に「うちの教え子が進学するのでよろしく」と手紙に書いているほど。

いったいなにが、そこまで八雲に好まれたのか?

伝記的記述が少ないのだが、安河内自身も何かに没頭するタイプだったようだ。そのあたりで、八雲の気質とウマが合ったのかもしれない。

結局のところ、八雲という人間の扱いには二択しかない。「面倒くさい」と距離を置くか、「変人すぎて面白い」と距離を詰めるか、である。熊本の学生たちの大半は前者だった。安河内は後者だったわけだ。

こうしてみると、セツもまた後者の人間だったことがよくわかる。隻眼で、距離感がおかしくて、松江の怪談を聞き歩き、葉巻をくわえながら人力車で走り回る外国人。普通に考えれば、関わりたくない。しかしセツは「なんかこの人、変人すぎて面白いわ」と思えるタイプだった。そうでなければ、結婚はあり得なかった。

気難しい天才を傍に置ける人間というのは、才能を愛でるのではなく、その面倒くささごと楽しめる人間なのだ。赤星も、安河内も、そしてセツも、みんなそういう人間だった。僅かでもそういう人たちと出会えた八雲は幸運である。本人は全然そう思っていなかっただろうけれど。

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