深刻化する外国勢力の政治工作
たとえば、外国企業を装った投資ファンドが日本の大学研究者に接触し、最先端技術を流出させようとするケースを想定しよう。こうした事案では、資金の流れを追い、関係者の通信記録を分析し、必要に応じて事情聴取を行う必要がある。これを実行できるのは警察だけだ。外務省には捜査権限がなく、防衛省は国内の民間研究者を監視する立場にない。公安調査庁は情報収集はできても、強制捜査ができない。
また、外国勢力による政治工作の問題も深刻だ。海外では、政治家への資金提供や、シンクタンク・大学への寄付を通じた影響力獲得が問題になっている。特定国の関係者が政治家に資金提供していた事例や、外国政府系団体が学術界に資金を提供し、研究テーマに影響を与えようとした事例が報じられている。産業スパイも同様だ。
こうした問題に対処するには、資金の流れを追跡し、関係者の接触状況を把握し、必要に応じて強制捜査を行う能力が不可欠だ。金融庁との連携も警察には一日の長がある。
外交を優先する外務省の限界
さらに、サイバー攻撃の分野でも警察の役割は大きい。令和7年上半期の警察庁サイバー警察局の報告によると、全国で116件のランサムウェア被害が報告されており、同局が捜査と被害拡大防止にあたった。攻撃元は海外の犯罪組織と見られたものの、国家情報局がサイバー情報を扱うなら、こうした現場の実働部隊と密接に連携できる警察が中心になるのは自然だ。具体的な対処能力と経験を持つ組織が対応することで、インシデント発生時に適切な判断を行うことができる。
では、外務省、防衛省、公安調査庁が主導する場合はどうか。ここにはそれぞれ固有の問題がある。
外務省は外交交渉を担う組織である以上、外国政府との関係維持が最優先になる。たとえば、ある国の外交官が日本国内でスパイ活動を行っている疑いがあったとしても、外務省はその国との関係悪化を恐れて強く出られない可能性がある。外交的配慮が必要な組織に、国内の政治工作やスパイ活動への対処を任せるのは難しい。
さらに、将来的に対外諜報活動を行う機関を創設する場合、外務省には違法になり得るギリギリの活動を担わせるわけにはいかない。あくまでも外務省は国の外交の顔であり、泥臭い情報の世界に全面的に関わることは望ましくない。米国で国務省とCIAが別組織になっている理由でもある。

