順調に上昇していた出生率が急落
統計を検証すると、ハンガリーの政策を「成功」とする評価は適切ではないと思えてくる。
ハンガリーの合計特殊出生率は、過去最低だった2011年の1.23から、2021年には1.61まで上昇して、各国メディアから賞賛された。しかし、その効果は長くは持続せず、2024年には1.39に急落して再び少子化が悪化している。EU加盟国でも低い上に、言うまでもなく、人口維持水準である2.1には遠く及んでいない。
あれほどもてはやされたハンガリーの少子化対策が、なぜこうも簡単に失速したのだろうか。
先述したように、ハンガリーのGDP比で見た少子化対策への支出は、欧州でも最上位に近い水準に達している。実際、2010年代前半には婚姻件数が増え、出生数も一時的に回復した。
だが、その後の特殊出生率の推移を見れば、これは「成功」とは言えないのは明らかだ。では、導入初期はなぜ効果を発揮したのか。
これは人口学で言う、前倒し効果(テンポ効果)だったと考えられる。
喜んだのは「収入がある中間層」だけ
つまり、当初は結婚・出産を予定していた層が、経済的インセンティブによって早く結婚し、早く産んだのだろう。仮に、これに続いて新たに結婚や出産に踏み切る層が増加すれば、その効果は長く持続する。
また、政策導入当時、たしかに結婚率が上がったのだが、それは未婚カップルが政策を使うために法律婚に移行したためだと考えられている。そのため制度導入から数年が経過すると出生率は元のトレンドに戻っており、前倒し効果以上のものはなかったと考えるしかない。
ハンガリーの政策の最大の欠陥は、少子化対策を結婚後あるいは出産後の問題として設計した点にあり、支援の対象は原則として「すでに結婚している世帯」か「これから子どもを持つ世帯」だった。
また、少子化対策に対して「子育て支援」を中心にしたことで、次のような2つの反応があったと考えられている。
・資産と安定収入を持つ中間層以上は政策に反応した(効果があった)。
・都市部の若者、非正規層、資産を持たない層はほぼ無反応だった(効果がなかった)。
※FINANTIAL TIMES “Why Hungary’s lavish family subsidies failed to spur a baby boom”(2024年8月19日)
つまり、もともと年収がある水準以上にあって、結婚して子どもをもつ余裕のある人たちが積極的に制度を利用したものの、年収が水準に達しておらず、これまで結婚や出産に踏み切れなかった層には響いていないのである。

