先進医療は、将来的に健康保険を適用するかどうかを評価している段階の治療や医薬品だ。安全性と有効性が確認されると保険診療になる。保険外の治療費を全額自己負担するのは、健康保険が適用されるまでの経過措置的なもので、効果が認められれば、誰もが少ない負担で新しい治療や薬を利用できる。

だが、混合診療が全面解禁されると「健康保険が利く治療はここまで」とあらかじめ線引きされ、新しく効果的な薬が開発されても健康保険は適用されない可能性が高くなる。保険外診療は永久に全額自己負担しなければならないので、お金のある人しか医療の進歩を享受できなくなってしまうのだ。

たとえば、保険診療(A)と保険外診療(B)が100万円ずつかかる場合で、将来的な患者の自己負担額の推移を比較しよう(保険診療は高額療養費の対象になるので、手続きすれば自己負担額は9万円程度。70歳未満で一般的な収入の人の場合)。

現行の制度では、(B)の保険外診療が先進医療と認められるまではすべて自費で合計200万円かかる。だが、(B)が先進医療と認められると、保険診療部分は健康保険が使えるようになるので、合計109万円に。そして最終的に(B)にも健康保険が適用されれば、合計9万円の負担になる。

一方、混合診療が全面解禁されると、保険診療と保険外診療はいつでも併用できるので、最初から患者の負担は109万円でよい。しかし、(B)には永久的に健康保険は適用されず、負担が下がることはない。

混合診療の全面解禁は、一時的には自己負担を下げるが、長期的には患者の不利益になる可能性がある。今後のTPP交渉の行方を見守る必要がある。

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