秀吉は砦を使い捨てた

だが、秀吉が永禄9(1566)年に築いた墨俣一夜城は、城郭ではなくとりでだったはずだ。砦とは急ごしらえの臨時軍事拠点で、竹や木で作った柵や、土塁・空堀などを中心とした簡易なものだ。

『絵本太閤記』に登場する「洲の股の砦」は石垣や櫓まであるが、もちろんこれは空想の産物。国立公文書館所蔵
『絵本太閤記』に登場する「洲の股の砦」は石垣や櫓まであるが、もちろんこれは空想の産物。国立公文書館所蔵

『時代劇の「嘘」と「演出」』(洋泉社)に、面白い話が載っている。

平成8(1996)年、竹中直人主演の『秀吉』第6回のタイトルは、そのものずばり「墨俣一夜城」だった。同作の時代考証を担当していたのは、前述の小和田哲男。小和田は制作スタッフに、撮影セットはくれぐれも城郭ではなく砦としてほしいと念を押したという。セットに城が出現するのは認め難かったのだろう。