日本企業の活路は「アナログ」技術

――「中流」が競争力を失い、海外へ出ていくしかなければ、おっしゃるように、早く国内で新産業を生み出していくことが不可欠です。

【中村】日本の製造業で、いま、直接雇用だけで約1000万人が働いていますが、今後、その数を維持することはひじょうに難しい。海外の市場ごとに応じた製品を市場の近くでつくるとなれば、研究開発の開発部分も市場に近いところへ出さざるを得ません。そうなると、取引のある中小企業も出ていき、さらに素材を提供している業種も出ていくことになります。であれば、新しい産業の育成が必要で、「上流」で言えば地球環境を考慮した環境対応の分野、例えば電気自動車に使う高効率の電池や家庭用の蓄電池などは、世界的な需要が見込めます。高度な部品や新素材も有望です。米アップル社の「iPad」は、使われている部品の3割以上が日本企業製です。そのように、海外勢に真似できない部品や新素材は、まだたくさんあります。パナソニックで言えば、冷蔵庫用の真空断熱材などがあります。

――「下流」では、いかがですか?
(左)ロボットハンドの技術を応用した洗髪ロボット。頭の形に応じて、手洗いから泡洗浄、乾燥までを行う。(右)対話ロボット。遠隔地との通信を支援する。

【中村】まず、よく言われている医療や介護の領域があります。高齢者が暮らしやすくなる「衣・食・住」への潜在需要は、日本だけでなく、やはり高齢化が著しい中国にもあるでしょう。パナソニックでは、介護や洗髪を手伝うロボットや介護用ベッドの開発を進めています(写真)。寝たきりのお年寄りをお風呂に入れてあげるには、3人もの人が必要です。洗髪もリフレッシュに大切ですが、たいへんです。介護士さんの負担を減らすことが急務で、ベッドがボタン1つでチェアになるなど、いろいろ実験しています。

――ロボットが、介護士の代わりまでできるようになりますか?

【中村】時間も手も足りない介護士さんたちの手伝いができるだけで、ずいぶん違います。これは私の持論ですが、「人間生活というのは、100メートル技術が進むと、100メートル人と人の触れ合いが必要になる」と思います。米国でスポーツ専門のテレビ局ができて、野球やフットボール、バスケットボールなど、すべてのスポーツを自宅でみることができるようになったら、意外なことに、生のゲームをみにいく人が増えたそうです。やはり、みんなと一緒に、現場で「ワーッ」と大声を上げて楽しみたい。そういうものが、人間には必要なのです。

これは、アナログの世界です。そのよさが支持されたように、「ものづくり」でもアナログのよさが、必ず見直されます。ロボットも、いくら技術的に進歩しても、アナログである人間との触れ合い部分が大切なことは変わらず、そこに日本の「ものづくり」の活路がある気がします。

パナソニック会長 中村邦夫
1939年、滋賀県生まれ。62年大阪大学経済学部卒業、同年松下電器産業(現パナソニック)入社。93年取締役、北米本部長、96年常務取締役、97年専務取締役、AVC社社長、2000年社長、06年より現職。07年から11年まで日本経済団体連合会副会長を務める。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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