パナソニックは、2009年3月より欧州で白モノの販売を本格的に開始した。なぜ、韓国・中国メーカーに後れをとっての進出となったのか。そこでの成功のカギを握るのは何か。筆者は、経営学の観点から提言する。

パナソニックの創業者・松下幸之助氏は企業が税金を納めることが最大の社会貢献であると考えていた経営者である。その会社が当期純利益で3790億円の赤字を出した08年度に続き、09年度も1950億円の赤字を計上する見通し。09年5月にインタビューした大坪文雄社長の顔を見ていると、社長就任当初の強気の表情とは違い、ふっきれたような様子だった。それは、定量的、定性的というお決まりの分析手法では説明できない。ジャーナリストと経営学者の両方の資質を備えた筆者の視点から見ると、「中村邦夫前社長(現会長)が果たした構造改革の効果は消えた」という大坪社長は「出直し」を宣言したと思われる。

「出直し」という表現をすれば、経営戦略の見直しと思われるかもしれないが、「打って出る」という中期計画のスローガンのとおり、これまで売ってこなかった市場において既存の商品を徹底的に売るという考えにぶれはない。その一例が、「白モノ」(冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの家電製品)の欧州市場への本格的進出だろう。

08年9月と11月、筆者はテレビの報道番組からいずれもパナソニックに関するテーマでコメントを求められた。一つは08年10月1日に松下電器産業から「パナソニック」へ社名を変更した件について、もう一つはパナソニックによる三洋電機子会社化に関してであった。テレビの特性上、印象に残る一言二言で表現しなくてはならない。コメンテーターだけではなく、街角インタビューで話す市井の人々も同様である。気の利いたコメントがディレクターの判断で採用される。昨年のことながら、同番組内で映された街角インタビューで主婦と思われる欧州の女性が答えた一言を今も覚えている。

「パナソニックってどこの国の会社か知っていますか」と聞かれると、「あら、どこの国の会社だったかよく知らないわ。韓国かしら」と答えた。その女性が立っていたのは量販店の洗濯機売り場であった。