――いわゆる「六重苦」がもたらすコスト高で、輸出競争力が失われ、貿易赤字が続く懸念が出ています。

【中村】私は、貿易赤字が続き、遠からず経常収支まで赤字になりはしないかと、心配しています。日本は食糧も資源も輸入しなければならず、それを買うために「ものづくり」で外貨を稼いできました。いまは蓄えがかなりありますが、経常赤字が続いたらそれも減り、食糧や資源を買うゆとりが失われます。やはり、国内で「ものづくり」を再生させることは重要です。もう1つ、「六重苦」という国際的なハンディを克服するには、海外で生産・販売し、その利益や配当を日本に送る「仕送り国家」の形もあります。そうした所得収支の黒字で貿易赤字を補うことができれば、経常収支の赤字転落を防げるかもしれません。

――電力供給問題は、いかがですか。

【中村】「六重苦」の下で、長らく雇用や外貨獲得を支えてきた電機や自動車など従来型の「ものづくり」は、もう日本では続けられなくなっています。原発事故に伴う電力供給の制約や電力の値上げは、「とどめの一発」です。東京電力の17%の値上げだけで、パナソニックの電気代は6億2000万円増えます。全国の原発が動かないままとなれば、他の電力会社も値上げに踏み切る。パナソニックは全国で年間約500億円の電気代を払っていますが、仮に17%で計算すれば約85億円の負担増になる。火力発電の燃料代が高騰すれば、100億円も飛んでしまいます。これは、日本中の「ものづくり」へ打撃です。

大規模停電を避けるために計画停電を実施したら、今度は半導体や素材など24時間、設備を稼働させなければならない産業は、国内では続けられなくなります。自動車や電機に続き素材産業まで海外へ出てしまったら、日本に何が残るのでしょう。早く新産業を生み出していくことが、不可欠です。