相手を案内するのは「出入口の見える場所」

【(3)逃げ道が見えると信頼が生まれる――心理的自由の法則】

あなたは、商談や打ち合わせで、相手をどの席に案内していますか?

多くの方は、つい「奥の席」をおすすめするのではないでしょうか。けれど、実はこの席の位置から「出入り口が見えるかどうか」が相手の警戒心を左右します。

寝室でも、出入り口が見える方向に頭を向けると落ち着き、背中を出口に向けるとどこか不安になる。そんな経験は誰にでもあると思います。

これは、脳が安全確認をしているサインです。出入り口が見えない席では、人は無意識に「逃げられない」不安を感じます。背後が落ち着かず、視界に逃げ道がない配置は、「自由を奪われている」と感じ、脳は警戒心を高めます。

その結果、

・判断が慎重になりすぎる
・話が浅くなる
・提案を受け入れにくくなる
・結論を先延ばしにする

といった“拒否や保守的な反応”が起きやすいのです。

一方、出入り口が見える席では、「何かあっても動ける」と感じます。その感覚が思考を深め、反応をやわらかくし、提案を公平に受け止めて、冷静に判断できる状態へと導かれます。それが、人の決断を支える“場の力”です。

握手する手
写真=iStock.com/daizuoxin
※写真はイメージです

追い込まない配置が「心を開く土台」になる

この原理を「心理的自由の法則」と呼んでいます。“自由が守られる場”では、人は心が開きやすくなり、落ち着いて選べるようになります。この原理は、暮らしのさまざまな場面で働いています。

高原美由紀『できる人は25分で「場所」を変える』(青春出版社)
高原美由紀『できる人は25分で「場所」を変える』(青春出版社)

たとえば、

・子どもは出口が見える席のほうが落ち着く
・夫婦の話し合いも、背中を壁につけて出口を見られると安心する
・部下の1on1でも、追い込む配置だと本音が出にくい
・カウンセリングで“逃げ道をふさぐ配置”を避ける

追い込まない配置が、心を開く土台をつくります。

商談室では、出入り口や開放的な方向が見える位置をおすすめしましょう。逃げ道が見えれば、相手は焦らずに自分のペースで判断できます。そこでは、「コントロール」ではなく、「主体的な選択」が生まれます。

会議や食事のとき、正面ではなく、少しずれた席に座ってみる。対面で話すとき、椅子の向きを45度ほどずらすだけで空気は変わります。

レストランでは相手を背中が壁側・出口が見える席に通す。会話でも、相手を正面から追い込まず、視線や体、言葉、そして心の逃げ場を残しておく。こうした小さな工夫が、相手の心に余白を生み、その積み重ねが、関係をよりよい方向へ育てていきます。

ある夫婦は、食卓の真正面で話すとぶつかりやすかったため、リビング・ダイニングで過ごす、それぞれの定位置を、お互いに視線の逃げ場ができる45度の位置に変えました。しばらくすると、「いつの間にか冷静に穏やかに話ができるようになりました」とおっしゃっていました。

(参考文献)
・Awad, S., Debatin, T., & Ziegler, A. (2021). Embodiment: I sat, I felt, I performed – Posture effects on mood and cognitive performance. Acta Psychologica, 218, 103353.
・Sander, E., Caza, A., & Jordan, P. J. (2021). Psychological safety at work: A review and research agenda. Small Group Research, 52(4), 466–499.

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