――これに対して、他の先進国では外国人を「使い捨て」や「金づる」にしがちだと著書に書いているが、その例は。
「使い捨て」の典型は、季節労働だ。ワーキングホリデーも含めて、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、多くの国がやっている。農業分野が典型で、短期ビザを出して、数カ月働いて帰ってもらう。これが国際的にはむしろスタンダードだが、日本は季節労働をやっていない。技能実習でも3年、長ければ5年いる。
普通はそこまで長くとどめ置かない。管理コストを考えれば、必要なときに来てもらって、後は帰ってもらうのが一番合理的だ。それを日本はしていない、という意味で「使い捨てにしていない」と言える。
――「金づる」のケースで、アメリカの留学生は学費が非常に高いイメージがあるが、そういうことか。
アメリカもそうだが、特に顕著だったのはイギリスだ。イギリスは2010年頃まで、留学生を基本的に敵視する政策を取っていた。留学生は「インチキ留学生」で、留学を隠れみのに働いたり、永住しようとする存在だと見なされていた。
そのため、留学生は厳しく管理し、卒業したら必ず帰らせる。将来的な人材とは考えず、滞在中にできるだけ授業料を取る、という発想だった。イギリスの留学生政策を研究した本には、「留学生をキャッシュ・カウと見なしている」と書かれていて、日本語にすると「金づる」だ。
イギリスは留学生の卒業後の就職率や残留率が非常に低い。留学志望理由でも、「そのままイギリスで就労を目指す」と書くと落とされる、という話すらあった。
先進国では留学生向けに学費を高く設定している国が多いが、日本は基本的に二重学費を取っていない。ただし、英語圏はもともと魅力が強く、価格競争力がある。高くしても来る、という事情もある。
――次に、日本に今いる移民はどういう人たちなのか。日本に来る人は、貧しい層が出稼ぎに来るというより、アジアの中で勢いのある階層だ、と著書に書いている。特に技能実習生は、なぜ日本を選ぶのか。
理由は、「それが合理的な選択肢だ」と考える層が増えているからだ。前提として、アジアでは国際移住はもともと一般的な選択肢の1つだ。19世紀以来、出稼ぎ労働をベースにした移動が続いてきた地域で、その延長線上に、身の丈に合ったさまざまな選択肢がある。
その中で、日本は来るコストが非常に高い国だ。技能実習生であっても、準備に半年ほどかかり、その間は働かずに日本語や仕事の基本を学ぶ。収入がない上に、手数料として50万〜100万円ほどかかる。年収30万〜40万円の世界の人たちにとっては、年収の数倍を前払いする計算になる。
一方、産油国に行く選択肢もある。手続きは簡単で、2週間ほどで行けて、すぐに月13万〜14万円を稼げる。短期的には非常に合理的だ。
それでも日本を選ぶ人が増えているのは、高いコストを払ってでも日本に来たいと思い、その負担を賄える中間層が増えているからだ。技能実習で来る人は、単なる出稼ぎではなく、その先の進学やキャリアを見据えている。
実際、私の調査では、ベトナム人留学生の7〜8%は元技能実習生だ。技能実習で3年働いて約200万円をため、その資金で日本語学校に留学し、専門学校や大学に進学し、日本で就職する。そうしたルートが既に出来上がっている。
――コンビニで働く外国人は、日本語が非常にうまい。
あれは留学生だ。コンビニは在留資格上、就労系のビザでは基本的には働けず、学生アルバイトしかいない。日本語を使ってマルチタスクをこなす実践の場で、あそこで通用するのは、かなり能力の高い人たちだ。
今はバイトをしていても、数年後には日本の一部上場企業で総合職として働いている、ということも珍しくない。コンビニで働く留学生は、エリート層と言える。
技能実習生も、現地では高校を卒業し、お金を用意し、訓練を受け、いくつものハードルを越えてきた人たちだ。決して「底辺」ではない。
外国人技能実習制度は1993年に始まり、受け入れ数は増えたが、ハードル自体は昔からほとんど変わっていない。数が増えているのは、条件を緩めたからではなく、越えられる人が増えているからだ。
是川 夕(これかわ・ゆう)
1978年青森県生まれ。国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長。東京大学文学部卒業。カリフォルニア大学アーバイン校修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(社会学)。内閣府勤務を経て現職。OECD移民政策会合メンバー。


