「お鮨の神様は僕を見捨てない」
木村さんは、発見した「おいしさの理由」を包み隠さずお客さんに話した。データ化すると、再現性が高くなる。常識に囚われない鮨は、グルメを喜ばせる。木村さんの鮨の評判がさざ波のように広まり、お客さんがお客さんを連れてきてくれるようになった。
「金沢の古い料亭の旦那さんや、奈良の有名な料理屋の旦那さんも来てくれました。ふたりは、地元で富山に「鮨し人」というおいしい店があると広めてくれました。そういう出会いが続いて、どんどん忙しくなって。そうしたら、銀行とは借金の返済期限を延ばしてくれると話もつきました。それまでもうダメだって何度も思ったけど、自分では想像もつかないことが起きることってあるんですよ」
木村さんは、この頃から「お鮨の神様」の存在を信じるようになったという。
「僕、鮨し人を続けることを決めてから、ほんとに鮨のことだけ考えてきました。もちろん、誰もそんなの見てくれてないし、見てもらおうとも思ってません。でも、お鮨の神様は僕のことを絶対に見てるんですよ。だから、真剣にお鮨を握り続けている限り、お鮨の神様は僕を見捨てないって信じてるんです」
ボロボロの店がミシュランを獲った
鮨の神様は、味だけを見ているわけではない。どんなに味が良くても、職人が「どや!」と出す鮨は興ざめする。目指したのは、『情熱大陸』で観た荒木水都弘氏のような洗練された所作と、押しつけがましくない振る舞い。例えば、湯呑みを出す時に、ただお客さんの前に置くのか、少し手前に置いて、ゆっくり押し出すようにするのかで印象が変わる。鮨のデータ化と同じように、所作や会話もひとつひとつ検証して、磨いていった。
「うまい鮨屋」は全国にある。「あそこは良かった」と思い出に残る鮨屋になるために、試行錯誤を重ねた。気づけば日本各地からお客さんが訪ねてくるようになった。その口コミは海を渡り、海外からのお客さんも増えていた。
2014年、「食べログ」で4.03の評価を得て、「富山ベストレストラン」のナンバーワンを獲得。2019年には、フランス発祥で、海外ではミシュランと並ぶ影響力を持つと称されるレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』で、イノベーション賞を受賞した。そうして迎えた2021年5月、『ミシュランガイド北陸2021特別版』で一つ星を獲得する。
「メールで報せがありました。それはやっぱり嬉しかったですよ。調査員もよくうちに来てくれたなと思いましたね。150万円でDIYしたボロボロの内装だったし、壁にロックのシールを貼りまくっていたし、その時も器にお金を使う余裕はなかったんで、100円ショップで買った器でお鮨を出していたんで(笑)」



