安易に署名してはいけない

退去時の点検作業や請求書などのやり取りは通常、業者と借主の一対一で行われる。素人がひとりで業者と対峙するときに注意すべき事柄はどのようなものか。

「もっとも大切なことは、提示された請求書に対して、安易に署名をしないことです。また、借主が感情的になったり、相手の口車に乗って個人の判断で議論を続けてしまうと、それだけで時間を消費してしまい、よい結果になりません。

具体的には、たとえば賃貸借契約が保証会社利用で行われている場合には、議論に時間を費やしている間に保証会社に対する代位弁済手続きを進められてしまうことがあります。保証会社による保証履行が行われると、交渉の相手が貸主や管理会社ではなく、保証会社に切り替わります。そうなると、対応できる選択肢が限られてしまい、結果として減額交渉は難航を極めます。退去費用のトラブルは時間との闘いでもありますので、法的根拠や相場を理解したうえで反論をすることが有効となります」

借主は通常、素人である場合が多く、対して業者は賃貸物件の界隈に詳しいプロ。まして制限時間のあるなかで丸腰で闘うのは得策ではない。とはいえ、業者に対して牽制する一言を放つことはできるのだという。

契約書に署名しようとしている手元
写真=iStock.com/simarik
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「請求の根拠を示して」と伝える

「大切なことは、請求の根拠資料を提示してもらうことです。したがって、『法的根拠と減価償却を踏まえた資料をご提示ください。確認のため、専門家に相談を行います』と告げてください。そうすることで、根拠の不明瞭な請求を抑制することが可能だと考えます。ただし、その後の交渉においては、相手方も法的な対策を講じてくることが予想されます。対面の際に一度、言葉で制しておいて、実際にも専門家への相談をおこなった方がよろしいと思います」

前提として、借主に落ち度がある場合は当然に原状回復の義務を負うべきである。また一般論として、借主は住まわせてもらった賃貸物件について極力きれいな状態を保つべきだろう。だがもしも借主の無知につけ込んで、あるいは借主から追及されないことを見越して、“ギリギリ不当”な請求を繰り返す賃貸業者やその界隈がいるとすれば、どれほどさもしいことか。

借主の「面倒だからこのくらいなら支払ってしまおう」が業者の悪辣を増長させる。違和感を無視せず、相談の労を惜しまないことで、老獪で微妙な悪事を迎え撃てる。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版) 平成23年8月」国土交通省住宅局

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