部下が上司に反論するのは当たり前

顧客とは極めてローカルな存在である。グローバル市民などはおらず、タイ国籍、オランダ国籍などを持ったリアルな目の前の顧客に価値をどう提供するかが勝負である。

コーチングをしていると、「現地スタッフが主体的に動いておらず市場変化がうまく読み取れない。ライバルの価格対応にいつも二歩三歩遅れる」といった課題を持つ方がいるが、ここでも「オープンでフラットな組織運営」を重視する北欧流が参考になる。

「スウェーデンの組織には2つのモードが走っている。ひとつはオフィシャルな指揮命令系統。もうひとつは『人間同士』の関係性です。そして、後者に大きな比重があることが特徴です」とスウェーデン大使館員は話す。

また社会学者のG・ホフステードによると「スウェーデンの人々は平等を尊び、分権化された階層の少ないフラットな組織を好む」とのこと。社長をファーストネームで呼び、カンパニーカーは社長も一般社員も同じグレード、市民が国務大臣に提案の電話をする風土。それらは階層構造による上から下への指揮命令とは異なる、フラットで柔軟な関係性をパラレルに走らせる合理的な工夫である。そうして生み出される風通しの良さは、全員参加意識につながり、本質的に重要な情報流通を活性化させる。

スウェーデンと日本の合弁会社勤務を経験した日本人は言う。「ミーティングで若い人が上司に堂々と反論をする様には最初驚きました。そして上司も普通に反論に対応しているのです」。フラットでオープンな社会・組織風土は、スタッフ1人ひとりが組織の一員と自らを認め主体的に発言し行動する土台であり、激しさを増す環境変化を俊敏に組織内部に取り込む有効な手法となりうる。

また北欧では情報の透明性・公開性が徹底されている。スウェーデンでは、1776年に出版自由法が制定され出版物の検閲が禁止されている。透明性の徹底が先にあって、民主主義成立につながっていく順番が興味深い。ビジネスにおいても、情報・意見の抱え込みをなくすために透明性は必要であり、それによって組織への信頼感と自己開示への安心感が醸成されていく。

では日本の組織運営はどうだろう。気になるデータとしてパワハラがこの10年で8倍に激増している(厚労省調べ)。その背景には、ポジションパワーに過度に依存した風通しが悪い組織風土が存在すると思われる。そういう職場環境ではタイムリーな情報共有、創造的な発言意欲が萎縮してしまう。

ここで気になるのは、日本でならまだしも、それを海外の異文化環境でも行っていないか、ということである。パワハラの輸出である。「まさに今共有されるべき情報」を現地スタッフや若手がグッと飲み込んでいることはないだろうか? ただでさえも、本社-現地法人といった階層構造がある中、現地法人の一人ひとりが自分も組織の一員だという“誇り”を持ちうるようしつらえることが重要である。飲み会なども大切だが、音頭を取っている駐在員が帰任したら終わってしまうような一過性では駄目で、重要情報も皆と共有しあえるオープンでフラットな組織風土を定着させることが大切である。