続けていける仕組みをつくる

小説を書き始めた当時、藤井氏はソフトウエア会社に務める会社員だった。日中は本業に追われ、小説執筆に充てられるのは片道40分の通勤時間のみ。『Gene Mapper』は文字数でいうと約10万字、原稿用紙にすると約300枚に該当する。これだけのボリュームを藤井氏はほぼ通勤時間だけで完成させた。

【藤井氏】昼ご飯のときにiPadを使ったりはしましたが、ほぼ電車の中でiPhoneを使い、フリック入力で書きあげました。書ける日は1日に原稿用紙にしてだいたい10枚分ぐらいでしょうか。使ったのは「Notebooks」というアプリケーションです。いったん書いたら、縦組みで小説のように読める「bREADer」に送っておくんですよ。電車に乗ると、これを読み返すところから執筆が始まります。ついさっきまで書いたところを読み返して、「どこを書いてたっけ?」みたいな感じで見直して推敲し、続きを書くというパターンですね。飛ばして書いたりもしました。会話だけをまず書いてみるとか、書けるところをどんどん書いていくような感じです。で、貯めていく。

原稿を仕上げたら、次は組版の工程だ。電子書籍として出版するにはePub(電子書籍ファイルの形式)に変換する必要があるが、藤井氏はKindle、SONYのReader、kobo、iPhone/iPadなど、複数のデバイス・フォーマットに最適化したePubファイル制作をすべて自動化(プログラム化)して行なった。

【藤井氏】ここをルビにしようとか、スタイルをこうしようとかいった手作業を入れてしまうと、最終成果物の出力回数が減ると思いました。見出しやルビ、目次も全部、プログラムで組版できれば、何回も品質が確認できる。これが手でやる作業だと、段々いやになってきますよね。マーケティングや直販についても言えますが、持続可能な仕組みであることが大事なんです。

 自動化したのは、単にそれをこなせる技術があったから、だけではない。手作業は間違いを生む。やり出すときりがなくなる。時間が足りなくなり、次第にうんざりしてくる。藤井氏は限りある時間を作品の品質質向上のために割くことのできる持続可能な方法を追求したのである。

●次回予告
電子書籍『Gene Mapper』の価格はなぜ300円でも400円でもなく、500円だったのか。藤井さんには明確な理由があった。その藤井さんはなぜ300円のキャンペーン価格を実施したのか。「読者にとってフェアだと思われるタイミングで実施しています」ということばの意味は。次回第2回《藤井太洋「電子書籍」のフェアな売り方》、10月7日更新予定。

(撮影=プレジデントオンライン編集部)
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