ところが、である。オリンパスは月商の約3カ月分もの現預金を持っていたのである。もしも、オリンパスが儲かって儲かって仕方のない黒字企業だったなら、3カ月分の現預金を持っていても不自然ではなかったかもしれない。しかし、オリンパスは現預金を潤沢に持つ一方で、多額の借金を抱えていたのである。私から見れば、借金により1000億円程度を余分な現預金として保有していたように思える。オリンパスの調達金利は約2%だから、1000億円の借金があれば年間の利息は20億円にも達する。現預金を年商の3カ月分も持っているのなら、それを少しでも借金の返済に回して利息を圧縮するのがまっとうな経営判断というべきだろう。

では、なぜオリンパスは多額の借金を抱えながら、その一方で異様に高い水準の手元流動性を維持していたのだろうか。

ここからは完全な私の推測になるが、手元流動性の異様な厚みは、粉飾が明るみに出ることを予期した財務部門による「対策」の痕跡ではないかと考える。

財務部門の責任者は、当然、自社の決算が粉飾であることを知っていただろう。そして、粉飾が明るみに出て「オリンパスはヤバイ」ということになれば、銀行が一斉に手を引くことも、当然、予期していたはずである。

事件が明るみに出た際に、十分な資金がなく、かつ、銀行が新規の貸し出しに応じてくれなかったら、会社はたちまち資金繰りに窮してしまう。修羅場で頼りにできるのは、自分でコントロールできる資金だけである……。

借金をしてまでも月商の3カ月分にも達する現預金を保有していたのは、危機の到来を予見したオリンパス財務部門の事前対策ではなかったか。

そして、こうした異常な現預金の持ち方に疑問を持たなかったオリンパスの役員や社外取締役は、その不明を大いに恥じるべきだと考える。粉飾の事実を知らなかった役員は、なぜ現預金を山のように持っていながら借金を返そうとしないのかと、疑義を呈するべきであった。その分、株主に帰属すべき利益が少なくなったからだ。