なぜグーグルではなかったのか

そもそもディズニーは、著作権を侵害しているとしてAIの知的財産利用に距離を置いてきたとされている。だが、筆者の認識ではAI利用に対し「ポジショントークとして」距離を置いてきたと感じている。あくまでよりよい条件を引き出すための対抗姿勢だったのではないか。

ではなぜ、AI業界において最大級の影響力を持つグーグルではなく、オープンAIを選んだのか。

Disney+は最近、ショート動画を掲載するなど、通常のSVODプラットフォーム(定額動画配信サービス)からむしろYouTube的な立ち位置に展開させていこうという意図が見える。

ただ、グーグルのYouTubeと提携となると、これだけ同サイトがドミナント(支配的)になっている中なので、そこに包摂されるリスクを感じたのかもしれない。

元々、ディズニーはグーグルよりもマイクロソフトとエンタープライズ領域で付き合いがある。

Windows Media技術の採用や、Xboxを通じたエンターテイメント配信(例:DVD再生、後のDisney+アプリ)での協力関係。近年では、Disney+のインフラの一部や、テーマパークの体験、広告技術などでMicrosoft Azure(アジュール)を積極的に利用しており、強固なパートナーシップを築いている。

特にAzureは、大量のデータ処理やパーソナライズされた体験提供において重要な役割を果たしている。

こうした中で、マイクロソフト/オープンAI連合のほうが「組しやすし」と選択したのではないかと思う。

ディズニーが動けば他社も動く

ちなみに、今回の発表とともにディズニーはグーグルに対して著作権を侵害していると「停止命令書」を送付している。

2018年3月29日、シリコンバレーにあるGoogleの本社
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ロサンゼルス(ハリウッドなど映像・テレビのクリエイティブ産業)とサンフランシスコ(GAFAMなどのTech企業)の間にはこの四半世紀、ずっとこうした衝突が起こり続けてきた。

音楽でいえばMP3技術からナップスターによる“海賊”利用時代にCD売上は壊滅的なダメージを負った。2009~11年でSpotifyなどストリーミング業界に対し、Universal、Sony、Warnerの順に音楽ライセンス提供がされていった。

映画では、2011年からSony、20th century FoxなどがNetflixと映像ライセンス契約を締結した。ここでは2012年にディズニーが新作映画の劇場公開後独占配信権をNetflixと契約したことがきっかけとなり、Paramount、Warner Brothersが協調路線を敷くようになっていった。

ディズニーが動けば他社も動く、という過去のアナロジーをみれば、今回のオープンAI提携でほかの版権大手の各社がいま一斉に対話をスタートさせているのではないかと推測される。