「春よ、来い」を作った編曲家・松任谷正隆

松任谷由実「春よ、来い」のイントロは、J-POP屈指のピアノイントロです。日本の四季が、冬から春へと変化していく風景を、鮮明ではなくあえて柔和な、淡い雰囲気で表現し、別れを思わせる切なさを感じさせながら、暖かくなった季節の木々になびく桜を繊細に想像させる。

桜の花と背景に降る雪
写真=iStock.com/Lara_Uhryn
※写真はイメージです

“清らか”という言葉がピッタリのピアノイントロですが、松任谷由実から最初にメロディを聴かせてもらった時のことを、編曲を手掛けた松任谷正隆は、著書『僕の音楽キャリア全部話します』の中で、こう書いています。

「由実さんは、パット・メセニーがプロデュースした、イスラエル出身の女性シンガー、ノアをイメージしたエキゾチックなサウンドでこの曲を作っていました。でもメロディを聴いた瞬間、頭の中に和の風景が広がって、5分か10分でイントロを作りました。それは最初否定されたんですが。あの時の僕にはこれでいけるという、確信がありましたね。」

雪がひらひらと舞うような「なごり雪」

導かれるように、「春よ、来い」を、和の風景を感じるピアノイントロとして完成させた松任谷正隆ですが、「春よ、来い」以前にも、冬から春へと変化していく風景を彩ってきたピアノイントロではじまる曲の編曲を手掛けています。

それは、イルカが1975年にリリースしたシングル「なごり雪」です。「なごり雪」の、雪がひらひらと美しく舞うように鍵盤の音が高鳴るピアノイントロに関して、松任谷正隆は、同著の「春よ、来い」を紹介する章の前で、こう書いています。

「当時の僕としては、かなり満足のいく編曲に仕上がったと思ってます。そしてこの編曲が、7年後の1982年リリースの松田聖子「赤いスイートピー」のアプローチとダイレクトにつながっています。」

可憐さと初々しさの「赤いスイートピー」

藤田太郎『イントロの教科書』(DU BOOKS)
藤田太郎『イントロの教科書』(DU BOOKS)

松田聖子「赤いスイートピー」の、可憐さと初々しさを感じるピアノイントロの編曲を手掛けたのも松任谷正隆です。「なごり雪」、「赤いスイートピー」と、春色な3月、4月を彩る曲を手掛けていたからこそ、「春よ、来い」のメロディを聴いてすぐに、和の風景を想像できたのではないでしょうか。

そして松任谷正隆は「春よ、来い」のリリースから10年後の2004年に、ゆず「栄光の架橋」の編曲を手掛けます。「栄光の架橋」のイントロも、己の記録を伸ばすために挑み続けるアスリートの気持ちを癒すように、ピアノが響き渡ります。

松任谷正隆が紡ぎ出す、あの唯一無二のピアノイントロ。それはこれからも、私たちの心に春の訪れを告げ、日々に彩りを与えてくれることでしょう。

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