慎重派の視点――規制だけが答えか

しかし、すべての専門家がスマホ全面禁止を支持しているわけではない。テクノロジー教育の推進派は、デジタルリテラシーの重要性を強調する。21世紀を生きる子供たちにとって、デジタルスキルは不可欠であり、完全な排除ではなく「賢明な使用」を教えることが重要だという立場だ。

規制の実効性に疑問を呈する声もある。デジタルネイティブの子供たちは規制を回避する方法を見つけるのが得意であり、学校で禁止しても効果は限定的だという指摘だ。むしろ、批判的思考力とセルフコントロール能力を育てることが長期的な解決策になるという考え方である。

デジタル格差の懸念も無視できない。経済的に恵まれない家庭の子供たちにとって、学校はテクノロジーに接する唯一の場所かもしれない。完全に排除すれば、この子供たちが置いていかれる可能性がある。

日本のように両親が長時間労働をし、子供が一人で通学しなければならない国では、子供にスマホを持たせないというのは現実的に難しい側面もある。加えて、「日本では地震などの自然災害が起こるから、スマホをもたせないことは親にとっても難しいのではないか。

またデバイスの高機能化やアプリの多様化により異なる年齢層には異なる課題があるため、規制ではなく様々なメディアと共生できるリテラシー教育が大事だと考える」と指摘するのは、筑波大学図書館情報メディア系の叶少瑜(ヨウ ショウユ)」准教授だ。

テック企業側からは、問題は端末ではなくコンテンツとプラットフォーム設計にあるという反論もある。年齢に適したフィルタリング、使用時間制限、親のコントロール強化など、技術的解決策で対応すべきだという主張だ。

親の矛盾――最大の障壁は家庭にある

ブダペスト会議で繰り返し指摘されたのは、親自身の矛盾した行動だ。多くの親が子供にスマホを購入し、無制限のアクセスを許しながら、学校には規制を求める。スマホフリーを実現した学校の創設者は、「親のスクリーン習慣が子供の行動に強く影響する」と指摘する。家庭が学校での取り組みを無効化しかねない。

ベッドに横たわり、スマートフォンを使用している女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

興味深いことに、会議では、親が子供に本を読み聞かせるほうが、デジタルコンテンツを使うよりも、最大1年半の認知的優位性が見られたという研究が議論された。1日約8時間のスクリーンフリー時間、体を動かした活動、社会的つながりが、子供たちのより良い人間関係を作ったという。

日本は何を選ぶのか

結局、法による規制、学校ベースのイニシアティブ、積極的なデジタルリテラシー教育を含む包括的戦略が不可欠だ、というのが会議の結論だった。

単純にスマホやSNSを排除するのではなく、バランスの取れたデジタル環境の構築を目指すべきだという点で、専門家たちの意見は一致した。

ある調査では、日本の子供たちは、1日6時間以上をスクリーンに費やしているという。世界79カ所の国や地域の教育制度が動き、科学的証拠も揃い始めた今、日本社会もこの議論に本格的に参加する時期に来ているのではないだろうか。

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