未来を構想する力としてのSF
【暦本】それはもちろんいいんですが、イーロン・マスクさんのような人たちはたぶんSFをつくりたくて仕事をやっている。子どもの頃からSFをガンガン読んできたので、「火星に住む」という世界観は別に突飛ではないし、到達できる現実的未来だと思っている。だから、SFファーストでビジネスをつくっているところがあると思います。
そこはアメリカの強さで、SFファンがビジネスパーソンや起業家になっている。加藤先生はいろいろなアニメを見ていますよね。
【加藤】僕はかなり見ていると思います。
【暦本】それは研究の原動力ですか。
【加藤】そうですね。僕が見ている中で、たぶん皆さんも一番知っていて、これから起こるだろうなというのは、「機動戦士ガンダム(※4)」(富野由悠季監督、1979年開始のテレビアニメシリーズ)みたいな話です。ガンダムの設定は割と現実的で、月に拠点があって、そもそも「物の製造は月でやりましょう」という感じになっています。
※4 機動戦士ガンダム 1979年にテレビ放送が始まった宇宙戦争をテーマとする日本のアニメ作品。その後、続編や外伝が多数制作されている。
【瀧口】まさに今、議論されていることですね。
文学とSEリテラシーの関係
【加藤】月で製造して、火星や木星にも輸出して、かつ、宇宙で新しい合金が見つかって「それは地球ではつくれません」という感じです。これからの人類は、月には住む価値がないので、そこで何をするのか。たぶん火星などに住むためには、重力の小さい月のほうが地球から必要なリソースを送るよりもエネルギーが少なくて済むし、いろいろなものがより効率的につくれる。
【野村】月にはレアメタルとかあるんでしたっけ。
【合田】ヘリウム3がいっぱいありますよね。これは核融合で一番害のない物質で、核融合の燃料として必要なものです。地球では大気などで排除されてしまいますが、月には大気がないので、ヘリウム3があります。だから、みんな月に行こうとするのは基本的に「ゴールドマイニング(金の採掘)」とコンセプトが似ています。
【野村】隣の大きな国(中国)も力を入れていますしね。
【加藤】月の裏側(※5)の話もありますね。
※5 月の裏側 2019年に中国が世界で初めて、地球からは見えない月の裏側に探査機を着陸させた。月の裏側には、水が存在する可能性や大規模なクレーターから月深部の物質が取り出せる可能性があると期待されている。
【野村】SFといえば、日本でもたとえば星新一さんの本に今話しているようなストーリーがたくさん入っています。ただ、後書きで本人も「孤独だった」と書いているので、SFものはあまりメジャーになれなかったのかもしれません。
【暦本】『サイボーグ009(※6)』(石ノ森章太郎著、複数の出版社、1964年~未完)も、サイボーグというエンジニア・コンセプトが出てきたほぼ直後に漫画が出たので、最先端の話ですよね。それを当たり前に読んでいる世代のリテラシーは重要です。
※6 サイボーグ009 石ノ森序太郎のSF漫画。特殊能力を持つ9人のサイボーグ戦士の活躍を描いている。

